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総計予算主義の原則とは

総計予算主義の原則(地方自治法第二百十条)とは

「総計予算主義の原則」とは、「予算は、歳入予算と歳出予算とを混交せず、収入はその全額を歳入予算に計上し、支出はその全額を歳出予算に計上する(原則)」をいいます。
これは、歳入歳出予算をとおし、収入及び支出の実態の把握を容易に、かつ、予算執行の上からの責任を明確にすることで、予算の全貌を明らかにすることを目的とします。
総計予算主義の原則の適用に当たって、予算の混交をどの時点以後で捉えるかの点については、「契約等により債権債務が確定した時点以後の相殺について適用があるべき」と解されます。
そのため、当該時点以後において、債権債務を混交した場合は、総計予算主義の原則に反することとなります。

 

さまざまな総計予算主義の原則の適用

このほか、さまざまな総計予算主義の原則の適用の例を示します。
これらは、いずれも、総計予算主義の原則に則った取扱いとなります。

 

@ 下取り交換をし、当該交換価格を代金から控除する場合の例

次のいずれの例も、普通地方公共団体が、私人と対等の立場で契約を結ぶ私法上の行為に当たります。
民法では、契約自由の原則(※)が適用され、法律の許容する範囲内において、自由にその契約条件を定めることができます。
また、次のいずれの例も、契約による債務が確定した日前に相殺し、債務が確定した日以後に相殺は行われていません。
このことから、いずれの例も総計予算主義の原則に反しません。

 

なお、普通地方公共団体の財産の処分は、地方自治法第二百三十七条第二項の規定によりその制限があります。
このため、これらの例を実際に適用する場合は、総計予算主義の原則とは別に、同項の規定の適用の可否も、別に判断する必要があります。

 

例1 「市保有の自動車を下取り交換し、新しい自動車を取得する。その際の取得価格は、新しい自動車の価格から、当該下取り交換の価格を控除した残額とした。」

 

例2 「水害で破損した橋梁の架け替え工事の請負契約に当たり、破損した橋梁に含まれる鉄骨を請負業者に下取らせ、本来工事に要する経費から、当該鉄骨の下取り価格を控除した額を当該工事の請負代金とした。」

 

※ 契約締結の自由とは、相手方選択の自由、契約内容の自由及び契約方法の自由が認められる原則のことをいいます。
ただし、強行規定(契約自由の原則が制限される法令の規定をいいます。)に反する場合は、この限りでありません

 

A 民法の規定により相殺をする場合の例

次の例の業務委託契約やその契約に係る損害賠償は、私法上の原因から発生しているため、いずれも私法上の債権債務となります。
そのため、その取扱いも私法上の規定の適用を受けることとなります。

 

これらは、契約等により債権債務が確定した時点の後であっても、私法上の債権債務であるため、民法第五百五条の規定により、「相殺適状」(※)にある場合に限り、相殺することができます。
このため、私法上の債権債務が、相殺適状を満たしている場合に限り、普通地方公共団体においても、債権債務が確定した時点以後において、この債権債務を相殺、つまり歳入予算と歳出予算とを混交した上、その残額を収入し、又は支出することができます。

 

そのため次の例は、相殺適状を満たしているため相殺しており、前述の理由により、総計予算主義の原則に反しません。
ただし、通常の収入及び支出と同様、帳簿上では、この契約金を全額支出し、かつ、損害賠償相当額を全額収入したものとして整理していることとする必要があります。
なお、和解や損害賠償の額を定めることは、地方自治法第九十六条第一項第十二号及び第十三号等の規定により、自治体の議会の議決等の対象となります。
このため、これらの例を実際に適用する場合は、総計予算主義の原則とは別に、同項の規定の適用の可否も、別に判断する必要があります。

 

例 「A市は、B社と窓口業務の委託契約を締結しています。B社は、その不適切な対応により、この業務に関し、A市に損害を与えました。結果、協議の上、B社は、A市に損害賠償を支払う旨の和解をしました。しかし、その金銭の支払いは、A市がB社に支払うべき契約金を相殺して行うこととしました。A市は、この和解に従い、その契約金の全額の支出命令を発行し、そのうち当該損害賠償相当分はA市の歳入科目に、そして、残りをB社に振り込みました。」

 

相殺適状とは

※ 「相殺適状」とは、相殺(相手に対して同種の債権を持っている場合、その互いの債権を消滅させることをいいます。)を可能とする法律上の要件を、意思表示の時点及び実際の相殺の時点において満たした状態をいいます。
具体的には、次に掲げる要件を満たしていることをいいます。

 

@ 当事者同士に有効に成立する対立した債権が存在していること。

当事者それぞれが、互いに対立する債務と債権とを持っていることをいいます。
例えば、AとBとの間に互いに売買契約があり、それぞれ売主として互いに代金請求権を持ち、同時にそれぞれ買主として互いに貸金債権を持っているような状態をいいます。

 

A @の債権が同種の給付目的を有すること。

給付の内容が同種であることをいいます。
例えば、@の例でいえば、給付の内容は金銭の支払いを求めることであり、互いが同種の給付目的を有すると考えます

 

B いずれも弁済期が到来している債権であること。

いずれも弁済期が到来している債権であること。
ただし、弁済期が到来していない債権であっても、期限の利益の放棄により自らの意思で弁済期を到来させることができる債権であること。
相殺の前提は互いの債権と債務の弁済期が到来していることが条件となります。
また、相殺を申し出る側が持つ債務の弁済期が到来していない場合でも、自らがその期限の利益(※)を放棄すること(※2)により、弁済期を到来させることができる場合も、この弁済期が到来していることに含まれます。

 

※ 期限の利益とは、民法第百三十六条第一項の規定により、債務者が持つ利益をいいます。
具体的には、債務者は、債権者と取り決めた弁済期が到来するまでは、債権者にその債務を弁済しなくても良いこととをいいます。

 

※2 期限の利益を放棄することとは民法第百三十六条第二項の規定により、債務者がいつでも行うことができます。
放棄すると、支払約束の期限を失わせ、直ちに弁済期を到来させることとなります。

 

※3 債務者が自ら期限の利益を放棄した場合でも、民法第百三十六条第二項ただし書の規定により、債権者側の利益を害することはできません。
これは、例えば、債務者が、1年後に利息を含め弁済することとしている場合、直ちに弁済期を到来させても、1年後に支払う利息の支払いを免れることはないという意味です。

 

C その債権の性質が、その性質上相殺を許さないものではないこと。

債権の性質上相殺を許されないものの例は、次に掲げるようなものがあります。

 

ア 民法第五百五条第二項の規定により相殺禁止の合意に係る主張ができる場合
互いに相殺を禁ずる合意がある債権は、相手方が当該合意を知り、又は重大な過失によって知らなかった場合に限り、当該相手方に相殺の禁止を主張できます。
また、その立証責任は相殺の禁止を主張する側が負うこととなります。

 

イ 不法行為による債権の相殺(民法第五百九条)
@悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務、A人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(人の生命・身体の侵害時の債務不履行による損害賠償の債務(過失による場合も含みます。)も含みます。)は、原則相殺を主張することは許されません。
ただし、他人から譲り受けた債権は、この限りではありません。
これは、不法行為の誘発防止や被害者の救済を図る趣旨の考え方になります。

 

ウ 使用者責任が成立する場合の使用者負担すべき債権の相殺
民法第七百十五条の規定による使用者責任による債権について、最高裁判所の判決(※)では、不法行為によって生じた債務に当たるとし、民法第五百九条が適用され、相殺を主張することは許されないとされています。
※ 最高裁判所第三小法廷(昭和32年4月30日判決。昭和30年(オ)119号)

 

エ 差押えが禁止された債権の相殺
民法第五百十条の規定により、債権が差押えを禁じたものについて、その債務者は相殺を主張できません。
この債権が差押えを禁じたものの例としては、次に掲げるようなものがあります。
・ 扶養請求権(民法第八百八十一条)
・ 年金受給権(国民年金法(昭和三十四年法律第百四十一号)第二十四条及び厚生年金保険法(昭和二十九年法律第百十五号)第四十一条)
・ 各種保険金の給付権(国民健康保険法(昭和三十三年法律第百九十二号)第六十七条、雇用保険法第十一条、自動車損害賠償保険法(昭和三十年法律第九十七号)第十八条等)
・ 生活保護費(生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)第五十八条等)
・ 各種手当(母子保健法(昭和四十年法律第百四十一号)第二十四条、児童扶養手当法(昭和三十六年法律第二百三十八号)第二十四条、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(平成十七年法律第百二十三号第十四条)等

 

総計予算主義の原則が適用されないもの

普通地方公共団体には、歳入歳出外現金(※)及び基金(※2)に属する現金の収支があります。
しかし、これらは、収支となる現金の動きが、その帳簿上にあっても、歳入予算及び歳出予算ではないため、総計予算主義の原則が適用されません。

 

※ 「歳入歳出外現金」とは、地方自治法第二百三十五条の四第三項に規定する保管金をいいます。
この保管金は、源泉徴収した所得税のように普通地方公共団体の所有に属さない現金で、その普通地方公共団体が保管する現金をいいます。
この名称は、昭和38年の地方自治法の改正により規定されました。
この改正以前は、雑部金として規定されていました。
また、同法の規定では、法律又は政令の規定によるのではなければ、歳入歳出外現金等とは別に普通地方公共団体が独自に雑部金に類似した制度を設け、その所有に属さない現金を保管することはできないとされています。
自治体の会計規則等により、規定により歳入歳出外現金及び保管有価証券を総称して、雑部金と定義することがよくありますが、その意味は、同法第二百三十五条の四第二項及び第三項に規定する歳入歳出外現金と自治体の所有に属さない有価証券を総称したものに外なりません。
また、会計実務上、あまり明確に雑部金という言葉を整理して使用していない例が見られ、単に雑部金といった場合、歳入歳出外現金を指していることが多くあります。

 

※2 基金の設置目的に沿わない処分(ここでは現金の処分をいいます。)は、総計予算主義の原則の例外とはならず、当該処分する現金を歳入歳出予算に計上し、必要な予算執行をしなければなりません

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