支出負担行為と兼命令書とは|公務員の財務をわかりやすく解説
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支出負担行為の意義
支出負担行為とは(地方自治法第二百三十二条の三)
「支出負担行為」とは、普通地方公共団体の支出の原因となる契約その他の行為(※)であり、普通地方公共団体の支出の原因となる一切の行為(※2)が含まれます。
支出負担行為は、歳入における調定に相当するものであり、歳出における支出の第一段階として、支出負担行為を行い、それにより予算執行の適正化を図ることをその意義(※3)とし、支出負担行為を行わなければ支出をすることができません(地方自治法第二百三十二条の三)。
※ 「その他の行為」とは支出負担行為として支出負担行為手続規程等に支出負担行為として定めた行為であり、契約以外の支出の原因となる一切の行為をいいます。
※2 「支出負担行為をすべき支出の原因となる一切の行為」とは、具体的には次に掲げる支出の原因となるべき一切の行為をいいます。これらの行為を行う際に、法令や予算の定めるところに従い、支出命令とは別に、支出命令より前に予算執行の第一段階として行わなければなりません。
また、支出負担行為を行わずに、支出手続を行うことはできません。
ア 工事、製造などの請負契約、物品の購入契約といった私法上の債務を負担する決定行為
イ 補助金の交付決定といった債務を負担する決定行為
ウ 地方公共団体の不法行為に基づく損害賠償金の支出の決定行為
エ 給与その他の給付の支出の決定行為
オ 地方公共団体内の会計間の繰入れの決定行為
※3 「支出負担行為の制度の意義」
支出負担行為制度は、地方公共団体に先立ち、国において昭和24年に制度化されました。
その理由は、それまで予算の執行統制が支出の最終段階においてのみ行われ、債務負担の段階で十分に執行統制が行われていませんでした。
このため、予算の見通しがないにもかかわらず契約締結等債務負担をする等、適正な予算執行が確保されない状態がありました。
このことから、このような状況を是正するため、支出負担行為の概念を導入し、これを欠く支出は認められないこととしました。
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支出負担行為の権限
支出負担行為の権限は、地方自治法上は長にありますが、予算事務規則等の規定により、所管の課長、室長、学校長又は館長(以下「支出負担行為者」といいます。)などにその権限が委任されています。
支出負担行為の考え方
支出全体の流れの中で、支出の意思決定をすることが、支出負担行為であると考えると判りやすくなります。
順番 | 事象 | 説明 |
---|---|---|
1 | 予算案の上程 | 主管課が原案を立案し、各種ヒアリングを経て、首長が予算案を議会に上程します。 |
2 | 議決 | |
3 | 予算の成立 | 議会で議決され、議長から議決通知がされ、それを基に地方自治法に基づき首長が告示をすることで予算が成立します。 |
4 |
予算の配当、配付及び令達 |
告示後、財政課により所管課へ予算の配当等を行います |
5 |
支出負担行為 |
支出する原因が発生した場合に作成する書類に応じた時期に支出負担行為が行われたと判断されます。 |
6 | 支出命令 | 支出負担行為後、支出命令書を起票します。ただし、兼命令書は支出負担行為と同時に支出命令書を起票します。 |
7 | 支払い(予算執行) | 会計室に各種書類が送付され、審査の上、支出命令書等にあるとおり予算執行されます。 |
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支出負担行為の実務
支出負担行為に当たり確認すべき事項
支出負担行為に当たり、収支命令者が確認する事項は次のとおりですまた、支出命令を行う前にも収支命令者は同様に次の事項を確認する必要があります。
@ 配当予算があるか。また、その配当予算の目的に適合するか。
A 歳入歳出を混合していないか(総計予算主義の原則に反していないか。)。
B 会計年度所属区分に誤りはないか(会計年度独立の原則に反していないか。)。
C 検査が完了しているか。また、契約上支出すべき時期が到来しているか。
D 正当債権者であるかどうか(名義、肩書、代表者の役職名等)。
E 支払金に関し、時効は完成していないか。
F 公金の支出の禁止に触れないか(政教分離の原則に反していないか。)。また、寄附や補助が公益上必要なものか。
G 部分払(工事にあっては出来高払)の金額が法令の制限(既済部分にする対価の10分の9をいいます。)を超えていないか。
H 資金前渡、概算払及び前金払にあっては、その使途が法令で許されているか。
I 完了届、請求書等必要な書類が整備されているか。
J 金額に計算違いがないか。
K 支出科目(款、項、目、節、細節、事業名、年度など)は正しいか。
L 必要な印鑑が押印されているか。
支出負担行為の時期と範囲
@ 支出負担行為の時期と範囲
支出負担行為者が、支出負担行為として整理する時期、支出負担行為の範囲及び支出負担行為に必要な主な書類は、次に掲げる区分によります。
区分 |
支出負担行為として整 |
支出負担行為の範囲 |
支出負担行為に必要な |
備考 |
---|---|---|---|---|
1 報酬 |
支出決定のとき |
当該支給期間分又は |
給与台帳、仕訳書 | |
2 給料 | 当該給与期間分 | 給与簿、仕訳書 | ||
3 職員手当等 |
支出しようとする額 |
諸手当簿、仕訳書、戸 |
||
4 共済費 | 払込通知書 | |||
5 災害補償費 |
本人の請求書、病院等 |
|||
6 恩給及び退職年金 | 請求書 | |||
7 報償費 | 交付及び支出決定のとき | 交付及び支出を要する額 | 支給調書 | |
8 旅費 | 支出決定のとき | 支出しようとする額 | 請求書、命令書 | |
9 交際費 | 交付決定のとき | 交付を要する額 | 請求書 | |
10 需用費
ロ 食糧費
ハ 一般需用費
ニ 修繕料 |
契約を締結するとき
契約を締結するとき
契約を締結するとき
契約を締結するとき |
契約金額(発注額又
契約金額
契約金額(発注額又
契約金額(指示金額) |
契約書、請書、見積書
契約書、請書、入札
契約書、請書、入札 |
単価契約によるもの
単価契約によるもの |
11 役務費
ロ 運搬料、保険料、手数料 |
請求のあったとき及び |
請求のあった額及び
契約金額(指示金額 |
契約書、請書、申込書の写し、請求書
契約書、請書、入札 |
運賃先払による運搬 |
12 委託料 |
契約を締結するとき |
契約金額(指示金額 |
契約書、請書、入札 |
後納契約又は単価契 |
13 使用料及び賃 |
契約を締結するとき |
契約金額(指示金額 |
契約書、請書、入札 |
後納契約又は単価契 |
14 工事請負費 |
契約を締結するとき |
契約金額(指示金 |
契約書、請書、入札 |
単価契約によるもの |
15 原材料費 |
購入契約を締結すると |
購入契約金額 |
契約書、請書、見積 |
|
16 公有財産購入費 |
購入契約を締結すると |
購入契約金額 | 契約書、請書、見積書 | |
17 備品購入費 |
購入契約を締結すると |
購入契約金額(発注 |
契約書、請書、入札 |
単価契約によるもの |
18 負担金補助及び交付金 |
指令をするとき(請求 |
指令金額(請求のあ |
指令書の写し、内訳書の写し、(請求書) |
指令を要しないもの |
19 扶助費 |
支出又は交付決定のと |
支出又は交付しよう |
請求書、(発注書) |
単価契約によるもの |
20 貸付金 | 貸付決定のとき | 貸付を要する額 | 契約書、申請書 | |
21 補償、補填及 |
支出決定のとき | 支出しようとする額 | 判決書謄本、請求書 | |
22 償還金、利子及び割引料 |
支出決定のとき |
支出しようとする額 |
請求書 |
|
23 投資及び出資金 |
出資又は払込決定のと |
出資又は払込を要す |
申請書、申込書の写し | |
24 積立金 | 積立決定のとき | 積立しようとする額 | 関係書類 | |
25 寄附金 | 交付決定のとき | 交付を要する額 | 関係書類 | |
26 公課費 | 支出決定のとき | 支出しようとする額 | 公課金書の写し | |
27 繰出金 | 支出決定のとき | 支出しようとする額 | 繰出決定書 |
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備考 支出負担行為として整理する時期を「請求のあったとき」で整理する場合で、当該請求が出納整理期間中になされたときは、検査又は確認を行なったときに整理するものとする。
A 支出の方法などから区分する支出負担行為の時期と範囲
上記の表に関わらず、支出負担行為者が、支出負担行為として整理する時期、支出負担行為の範囲及び支出負担行為に必要な主な書類は、次に掲げる区分によります。
区分 |
支出負担行為として整理する |
支出負担行為の範囲 |
支出負担行為に |
---|---|---|---|
1 資金前渡 | 資金の前渡をするとき | 資金の前渡を要する額 | 資金前渡内訳書 |
2 概算払 | 概算払をするとき | 概算払を要する額 | 概算払内訳書 |
3 繰替払 |
現金払命令又は繰替命令を発す |
現金払命令又は繰替命令を |
内訳書 |
4 過年度支出 | 過年度支出を行なうとき | 過年度支出を要する額 | 内訳書 |
5 繰越 |
当該繰越分を含む支出負担行為 |
繰越をした金額の範囲内の |
契約書 |
6 返納金の戻入 | 現金の戻入の通知があったとき 戻 |
繰越をした金額の範囲内の |
契約書 |
7 債務負担行為 | 債務負担行為を行なうとき | 債務負担行為の額 | 関係書類 |
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B 支出負担行為の時期の特例
次に掲げる経費の支出負担行為の手続は、その支出命令の手続に併せて行うことができます。
つまり、次に掲げる経費は、支出負担行為兼支出命令書(以下「兼命令書」といいます。)によって、支出負担行為及び支出命令を同時に行うことができます。
ア 報酬、給料、職員手当等(退職手当を除きます。)、共済費、賃金及び旅費
イ 電気、水道、下水道、ガス、電話及びテレビ等の使用料金等で定期的に支払いを要する光熱水費及び電信料
ウ 料金後納郵便に係る郵送料
エ 前渡金及び概算払で繰越精算を要する経費
オ 法令等で定期的に支出することが定められている経費
カ その他首長が指定する経費
支出負担行為の方法
「支出負担行為」を行うには、その権限をもつ支出負担行為者が、次に掲げる書類で意思決定する必要があります。
@ 原議の決裁による支出負担行為
原議(文書管理システムによる電子決裁文書を含みます。)において、その支払の内容が全て明確にされ、かつ、支出負担行為者が決定権者として意思決定することによって、支出負担行為を示す書類となります。
これにより、当該原議が支出負担行為書の役割を果たします。
A 契約の締結による支出負担行為
契約を締結し、契約書(請書を含みます。)を作成することが支出負担行為を示す書類となります。
契約の意思決定は、契約書を作成するための一連の手続の中で行われます。
これにより、当該契約書が支出負担行為書の役割を果たします。
また、年間単価契約は発注ごと、分割支払いする総価契約は最初の契約時に一括して、それぞれ支出負担行為を行うため、年間単価契約は発注ごとのその発注書が、当該総価契約は最初の契約書が、それぞれ支出負担行為書の役割を果たします。
B 支出負担行為書兼支出命令書(以下「兼命令書」といいます。)による支出負担行為
兼命令書の支出負担行為は、支出負担行為と支出命令を同時に行うことができます。
これは、支出負担行為者と収支命令者が同一権限者であるために行うことができるもので、事務の簡素化を図れるメリットがあります。
反面、重要な支出決定における事故を防止する観点から、その取り扱いに慎重な対応を要します。
そのため、支出負担行為手続規程等により、その範囲を限定して定めています。
なお、兼命令書に押印する印は、会計規則の規定による届け出された印鑑を押印します。
なお、兼命令書で支出できる経費は上記「B 支出負担行為の時期の特例」に掲げる経費となります。
参考:3月分の光熱水費の支出負担行為として整理する時期
光熱水費の「支出負担行為として整理する時期」は、支出負担行為手続規程では、「請求のあった日」とあります。
例えば、3月分の光熱水費の請求が4月4日にあった場合、支出負担行為の月日、つまり、兼命令書の起票日は4月4日としたくなりますが、正しくは兼命令書の起票日(決裁日)は3月 31 日(休日にあってはその前日)とする必要があります。理由は次のとおりです。
歳出予算推定差引簿
支出負担行為を行うに当たって、収支命令者は予定経費として必ず事前に予算の差引をしなければなりません。
ただし、多くの自治体では財務会計システムの導入により、それぞれの支出負担行為に合わせて同システムの該当の帳簿へ自動的に記帳し、その結果は、歳出予算推定差引簿で確認することができるようになっています。
歳出予算推定差引簿は、契約伺い(又は発注)を起票すると、負担行為推定額(推定残額)の欄(上段)にその金額が、下段に予算から負担行為推定額の累計額を控除した推定残額が表示されます。(下表参照)
また、契約決定書(又は発注書)を起票すると、負担行為決定額(推定残額)の欄の上段にその金額が、当該欄の下段に予算から負担行為決定額の累計額を控除した推定残額が表示されます。(下表参照)
この推定残額により、支出負担行為可能な予算額の余力を判断することができます。
負担行為推定額 |
負担行為決定額 |
---|---|
35,000 |
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0 |
35,000 |
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