金銭会計事務における監督責任と保管責任等

金銭会計事務における監督責任と保管責任等

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金銭会計事務における監督責任と保管責任等

会計規則等では、現金、有価証券又は小切手帳に亡失、損傷その他の事故があったときの報告の規定や現金、有価証券等の出納・保管に関する監督責任や保管責任を、地方自治法では、会計事務に携わるそれぞれの職員が負うべき賠償責任をそれぞれ次のとおり定めています(地方自治法第二百四十三条の二)。

 

1 亡失、損傷等の報告について

会計管理者、金銭出納員、現金取扱員及び資金前渡受者は、その保管している現金、有価証券又は小切手帳に亡失、損傷その他の事故があったときは、事故報告書を作成し、部長又は室長の意見を付けて、会計管理者を経て首長に提出しなければなりません。

 

2 会計規則等における現金等の保管に携わる職員の責任と義務

(1) 部長又は室長の監督責任
部長又は室長は、現金及び有価証券の出納・保管その他会計事務について、所属の資金前渡受者及び金銭出納員を監督する義務があります。

 

(2) 金銭出納員の監督責任
金銭出納員は、現金の出納・保管の事務について、所属の現金取扱員を監督する義務があります。
金銭出納員は、地方自治法第百七十一条第四項の規定による委任の告示(※)により、その委任された会計事務(当該告示では、出納事務としていますが同意義です。)について、会計規則等の規定により、その所属する現金取扱員に命じ、その会計事務の一部を担当させています。
このことから、所属の現金取扱員を監督する義務があります。

 

(3) 会計管理者等の保管責任
会計管理者、金銭出納員、現金取扱者及び資金前渡受者は、現金及び有価証券又は小切手帳の保管について、善良な管理者の注意を払う義務(※)があります。

 

善良な管理者の注意を払う義務
善良な管理者の注意とは、過失の前提として要求される注意義務の程度を表す法律用語です。「善管注意義務」とも呼ばれます。
この注意義務を負うと、その保管について、保管責任者の属する職業又は社会的地位に応じ、通常期待されている程度の注意義務を負うこととされています。
また、これよりも程度が軽い注意義務として、無報酬で物の保管を引き受けた者等が負う注意義務として「自己の財産におけると同一の注意をなす義務」というものがあります。「自己のためにすると同一の注意をなす義務」等と規定している場合もあります。
これは、その保管について、自分の財産と同じ程度の注意義務を負うこととされています。
このことから善良な管理者の注意を払う義務が課せられている会計管理者、金銭出納員、現金取扱者及び資金前渡受者は、職責に応じた厳しい注意義務を課せられていることが判ります。

 

3 地方自治法における職員の責任

(1) 職員の責任
地方自治法では、次に掲げる現金及び有価証券の保管に携わる任命を受けた職員が、故意又は重大な過失(現金は故意又は軽過失)により、その保管に係る現金等を亡失し、又は損傷したことにより、自治体に損害を与えたときは、それぞれの責任に応じて賠償責任を負います(地方自治法第二百四十三条の二)。
@ 会計管理者
A 金銭出納員及び現金取扱員並びに会計職員
B 資金前渡受者

 

※ 過失の種類について
「重大な過失」とは、人が通常要求される程度の相当の注意(善良な管理者の注意を払う義務をいいます。以下同じです。)をしないでも、わずかの注意さえすれば、容易く違法有害な結果を予見することができたにも関わらず、漫然とこれを見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如をいいます。
「軽過失」とは、人が通常要求される程度の相当の注意を、多少なりとも欠いた場合をいいます。地方自治法第二百四十三条の二に規定される過失は、軽過失をいいます。

 

(2) その他の職員の責任
地方自治法では、現金及び有価証券の保管に携わる職員の責任のほか、次に掲げた権限を有する普通地方公共団体の職員が、故意又は重大な過失により、法令に違反して行為をしたこと又は怠ったことにより自治体に損害を与えたときも、それぞれの責任に応じて賠償責任を負います(地方自治法第二百四十三条の二)。
@ 支出負担行為の権限を有する職員
A 支出命令の権限を有する職員
B 支出命令が適正なものであるかの確認の権限を有する職員
C 支出又は支払の権限を有する職員
D 契約の適正な履行又は完了の確認ために必要な監督又は検査の権限を有する職員

 

4 その他の責任について

これまで解説をしてきた、地方自治法第二百四十三条の二の規定の趣旨は、損害賠償について裁判による命令を経ず、長の賠償命令という内部手続により、容易に損害の補てんを可能とするところにあります。そのため、同条に規定される職員以外の職員が、賠償責任を免れるという趣旨の規定ではありません。
このことは、大阪高等裁判所判決(昭和 48 年7月 16 日(昭和 46 年(行コ)12 号))(※)においても、「違法行為により地方公共団体に損害を与えた場合は、民法上の不法行為に基づく損害賠償義務を負う。」と判示しています。
このことから、同条が適用されない職員であっても、故意又は重大な過失により自治体に損害を生じさせた場合は、民法上の不法行為責任を免れません。
また、同条等の規定のほか、公務員としての服務上の責任は、この章における賠償責任とは別に判断されることは、いうまでもありません。
※ このほか当該判決では「地方公共団体の職員が、その違法な行為によって地方公共団体に損害を与えた場合には、故意または重大な過失があったときに限り、民法上の不法行為に基づく損害賠償義務を負担する。」とされました。

 

用語解説
服務(地方公務員法(昭和二十五年法律第二百六十一号)第三章第六節及び服務規定)
服務とは、地方公務員法第三章第六節に規定するものです。服務とは概ね次のものをいいます。これらに違反した場合、自治体では、関係法規、懲戒処分の指針等を踏まえ、その行為の態様、常習性、被害の大きさ、社会的重大性の程度、職員の職責、過失の大きさ、信用失墜の度合いなどに応じ、免職、停職、減給、戒告などの懲戒処分等が行われる場合があります。

 

(1) 職務上の義務
@ 法令等及び上司の職務上の命令に従う義務(地方公務員法第三十二条)
A 職務に専念する義務(地方公務員法第三十五条)
B 秘密を守る義務(地方公務員法第三十四条)
C 地方公務員法その他の法規による職務上の義務

 

(2) 身分上の義務
@ 信用失墜行為の禁止(地方公務員法第三十三条)
A 地方公務員法その他の法規による身分上の義務

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