期限の利益の喪失事由とは?「失期事由」と「請求失期」を徹底解説!

期限の利益の喪失事由とは?「失期事由」と「請求失期」を徹底解説!

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期限の利益の喪失事由とは?「失期事由」と「請求失期」を徹底解説!

期限の利益の喪失とは

例えば、1月31日が支払期限の約束でお金を貸した場合、貸主は1月31日が到来しないと借主に対して返済を請求できない。このように、期限が未だ到来しないことによって当事者が受ける利益を「期限の利益」といいます(民法135条)。
ところで、貸金の場合、特定の期限に貸金全額を一括で返済するという約束よりも、例えば「毎月末日に10万円ずつの10回払い(総額100万円)」というような分割返済の合意がなされるのが大半です(本市町村の貸付金の多くは分割返済方式です。)。

 

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分割返済の合意がなされている場合は、例えば、1月末日に1月分の10万円の期限が到来し、2月末日に2月分の10万円の期限が到来することになるため、仮に、3月1日の時点で1〜2月分が全く支払われていなくても、3月分については期限が到来していないので、3月分以降の返済(残り8回分)を同時点で全額請求することは原則としてできません。但し、後述する民法等の法令に定める事由が生じた場合には、債務者の有していた「期限の利益」が喪失され、債権者は債務者に対して貸金全額の請求をすることができるようになります(民法137条等)。

 

しかしながら、これらの法令上の規定のみでは不十分なことから、通常、貸金契約等では、特定の事項に該当する事実が生じた場合には期限の利益を喪失し、債権者が残債務全額を一括請求できるという、「期限の利益喪失条項」が設けられています。

 

回収の場面では、期限の利益を喪失させることはとても重要な意味を持ちます。特に、保証債務の履行請求、相殺、不動産競売申立といった場面では、分割金の期限未到来の分も含めて可能な限り回収を図るためには、期限の利益を喪失させ、全額請求できる体制を整える必要があります。

 

期限の利益喪失事由とは

(1)民法上の期限の利益喪失事由

民法137条に定められている期限の利益喪失事由は次の@)ないしB)の3つです。
@)債務者が破産手続開始の決定を受けたとき(1号事由)
A)自ら担保をき滅し、又はこれを減少させたとき(2号事由)
B)担保を提供する義務を負いながらこれを供しないとき(3号事由)

 

(2)契約上の期限の利益喪失事由

契約上の期限の利益喪失条項は、債務者の信用状況が悪化した場合や、他の債権者が差押えをした場合などに、債権者から全額の請求を可能にするために設けられており、公序良俗に反するなどの特別な事情がない限り、原則として当事者の合意で決まるため、その種類を全て列挙することはできません。

 

そこで、便宜的に、期限の利益喪失約款の最大公約数的な内容を持つ契約として、銀行取引約定書に記載されている期限の利益喪失事由を列挙します。

 

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なお、期限の利益喪失条項には、一定の事由が生じた場合には期限の利益が当然に喪失するというタイプのものと(いわゆる「当然失期」条項)、一定の事由が生じたことに加えて、債権者から請求を行うことによって期限の利益を喪失するというタイプのもの(いわゆる「請求失期」条項)があり、銀行取引約定書では、両方が定められており、一般的には、債務者の信用悪化が明らかな事由の場合は当然失期、そこまで至らない事由の場合は請求失期というようになっています。

 

a)当然失期

@)支払停止又は破産・民事再生・会社更生・会社整理開始若しくは特別清算開始の申立てがあったとき。
A)手形交換所の取引停止処分を受けたとき。
B)債務者又は保証人の預金その他の銀行に対する債権について仮差押え、保全差押又は差押えの命令、通知が発送されたとき。
C)住所変更を怠るなど債務者の責に帰すべき事由によって、銀行に債務者の所在が不明になったとき。

 

b)請求失期

@)債務者が銀行に対する債務の一部でも履行を遅滞したとき。
A)担保の目的物について差押え、又は競売手続の開始があったとき。
B)債務者が銀行との間の取引約定に違反したとき。
C)その他債権保全を必要とする相当の事由が生じたとき。

 

(3)自治体債権の特殊性

市町村の貸付条例では、@)貸付金の融資目的外使用や、A)首長の指示に従わなかったとき、あるいはB)首長が特に必要と認める事実があるときなどが期限の利益喪失事由となっている点に特殊性があります。

 

但し、このうちA)、特にB)についてはその有効性に問題があります。前述したように、貸付債権は条例によって発生するのではなく、契約によって発生するものです。対等な当事者間で締結された契約が一方当事者の判断のみによって効力を失うことになるというような定めは無効の可能性が高いといえます。このことは、民法133条が「停止条件付法律行為は、その条件が単に債務者の意思のみに係るときは、無効とする。」と定めていることからも言えます。

 

但し、B)については、限定的に解釈することによって有効となる可能性もあります。銀行の場合も、上記のとおり、「その他債権保全を必要とする相当の事由が生じたとき」という一般条項があり、こうした条項を設ける必要性もあります。それ故、一般条項とは言っても、その程度の限定があれば有効と解されます。しかし、上記B)の文言それ自体から銀行の一般条項と同義だと解するのは難しく、やはり記載文言を変更することが望ましい。

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