破産手続開始書が届いたらどうする?債権者の対応の流れ|自治体債権
1 破産手続の概要
破産は、債務者が経済的に破綻した場合に、裁判所の監督のもと、破産管財人が債務者の財産を管理し、それを換価処分して全ての債権者に公平に配当し清算する手続きである。
裁判所から破産手続開始決定が出ると、債務者は破産者となり、破産開始時に存在した全ての財産の管理処分権を失い、破産管財人が管理処分することになる。
債務者にこれと言った資産がないときは換価処分する手続が不要であり、管財人の報酬等、破産手続費用の引当てもないことから、破産手続は破産開始決定と同時に終了する(破産法216条T。以下、破産法を「破」と略称する。)。これを同時廃止という。
破産管財人を選任した場合であっても、配当の見込みがないことが明らかになったときも手続を終了する(破217条)。これを異時廃止という。
破産手続きの流れとしては以下のような順番である。
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同時廃止(破216条)ではない場合
@破産手続開始の申し立て(破18、19条)、費用の予納(破22条)
・申立ての審査(破21条)
・包括禁止命令(破25〜27条)
・保全処分(破28条)
A破産手続開始決定(破30、31条)
・破産管財人の選任
・債権届出期間の指定
・債権者集会の期日の指定
・債権の一般調査期間、または一般調査期日の指定
B債権届出(破111〜114条)
※以下3パターンに分かれる
パターン1
C破産債権の調査及び確定(破115〜134条)
D配当(破193〜215条)
E破産手続集結決定(破220条)
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パターン2
C破産財産の管理及び換価(破153〜192条)
・任意売却
・強制執行
・債権取立て
・担保権消滅請求
・否認権の行使
D配当(破193〜215条)
E破産手続集結決定(破220条)
パターン3
C異時廃止(破217条)
同時廃止(破216条)の場合
@破産手続開始の申し立て(破18、19条)、費用の予納(破22条)B免責申立(破248〜254条)
A破産手続開始決定(破30、31条)
B同時廃止(破216条)
C免責申立(破248〜254条)
D復権(破255、256条)
以下に債権者として知っておかなければならない事項について説明する。
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2 破産手続の開始原因
債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、申立てにより、決定で、破産手続を開始する(破15条T)。債務者が法人の場合は、支払不能(資力が欠乏しているために、即時に弁済すべき債務全般にわたって、一般的に、継続的に弁済できないと認められる客観的な状態)のほか、債務超過も原因となる(破16条)。
破産開始決定が下されると、開始決定と同時に、破産者の財産(破産者の全ての財産ではなく、生活を維持するのに必要と認められる一定範囲の財産を除く、その余の財産である。これを破産財団という(破34条T)。因みに、破産者が管理処分権を失わない財産を自由財産という。)についての管理処分権は破産管財人(以下「管財人」という。)に移行し、破産者は管理処分権を失う(破78条T)。
債権者は、別除権付き債権を有する債権者を除き、破産手続によらなければ弁済を受けることができなくなる。また、破産者の財産に対して行っていた強制執行、仮差押え、仮処分等の手続きは、その効力を失う(破42条)。効力を失うとの意義は、管財人において、当該強制執行及び保全処分がないものとして、破産財団に属する財産を自由に管理、換価し得るところにある。例えば、管財人は、債権に仮差押えや本差押えがあっても第三債務者から債権を取り立てることができる。
なお、破産財団に関する訴訟は、破産手続開始の決定により、破産者が原告であると被告であるとを問わず中断する(破44条1)(管財人は、破産債権に関しないものについて中断した訴訟を受継することができ、相手方も受継の申立てができる(破44条U)。)
3 債権届出書
破産手続に参加するには、届出期間内に、債権届出書に所要事項を記載したうえ、これを裁判所に提出しなければならない(破111条T)。
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破産手続開始決定があると、知れたる債権者には裁判所から「破産手続開始決定」、「破産手続開始通知書」と共に「破産債権届出書」などが送られてくる。「破産手続開始通知書」には、破産者名、事件番号などのほかに、@)破産手続開始日時、A)管財人の氏名、電話番号、B)債権届出期間、C)債権届出書の提出先などが記載されている。
債権届出書は、法文では裁判所に提出することになっているが、実務では管財人の事務所に提出する。
債権届出書の記載事項は法定されているが(破111条)、裁判所から送られてきた破産債権届出書に所要事項を記載すればよい。
債権届出の際には、破産債権の存在を裏付ける資料(借用書等)も一緒に提出した方がよい。
破産手続に参加する、しないは債権者の自由であるが、自治体の場合には、必ず債権届出をして破産手続に参加しなければならない(自治令171条の4T)。
4 債権者集会
債権者集会は、破産債権者に対し、破産手続についての情報を開示するとともに管財人の業務に関する重要事項についての決定を行い、管財人の業務執行を監督する機会を与えること等を目的として、破産裁判所の招集、指揮のもとで開催される。
通常の問題のない事案であれば、業務時間を割いてまで敢えて出席することもない。出席しなくても特に不利益に扱われることはない。しかし、金額が大きく、しかも破産者に免責除外事由に該当する不正があるやも知れない事案については裁判所に出向いて情報を入手すべきである。
5 免責
(1)申立て
個人である債務者は破産開始後1ケ月以内に破産裁判所に対し免責許可も申立てをすることができる(破248条T)。実務では、破産手続開始の申立てと一緒に免責の申立ても行っている。
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(2)免責除外事由
免責除外事由は以下のとおりである(破252条T)。
@)債権者の公平を著しく害する財産減少行為又は債務負担行為をしたこと(1〜3号事由)
A)ギャンブルにより著しく財産を減少させ、又は過大な債務負担をしたこと(4号事由)
B)詐術を用いた財産取得行為をしたこと(5号事由)
C)破産手続の公正を害する行為をしたこと(7〜9号事由)
D)過去7年内に破産手続による免責決定を受けたことがあること又は個人民事再生手続により残債務の支払いを免れたことがあること(10号)
E)破産法上の義務に違反したこと(11号事由)
なお、1号事由、即ち、債権者を害する目的で、破産財団に属し、又は属すべき財産の隠匿、損壊、債権者に不利益な処分その他の破産財団の価値を不当に減少させる行為をすると、詐欺破産罪として10年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処せられ、又はこれを併科することになっていること(破265条T@)を銘記すべきである。
(3)裁判所の決定
裁判所は、上記免責除外事由が存しない限り、免責許可の決定をする(破252条T)。裁判所は免責除外事由があっても破産手続開始の決定に至った経緯その他一切の事情を考慮して免責許可の決定をすることができる(同条U)。
管財人が選任されない同時廃止事案では、債務者(同時廃止事案では開始決定と同時に破産手続は終了しているので破産者ではない。)に対し審尋を行ってから決定を下す。東京地裁では、問題のない事案については、数十名まとめて債務者審尋を行う。管財人がついた事案では、第1回債権者集会以降に管財人の意見を聞いてから決定している。
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なお、破産手続が終了していても、免責手続中は強制執行等の個別執行は禁止される(破249条T)。
(4)免責の効果
免責許可決定が確定したときは、破産者は、破産手続による配当を除き、破産債権について、その責任を免れる(破253条T本文)。
「責任を免れる」とは自然債務(責任なき債務。法的手段を用いて給付を求めることはできないが、債務者が任意に履行すれば給付を受け取れる。)とするのが通説である。
では、免責許可決定確定後に免責債権につき支払合意をすることは有効か。そのような合意は無効であるとする裁判例がある(*)。
(* 横浜地判昭63.2.29は「破産法が定める破産者の免責規定は、免責により破産者の経済的更生を容易にするためのものであり、破産者が、新たな利益獲得のために従前の債務も併せて処理するというような事情もないのに、免責された破産債権について支払約束をしてもこの支払の合意は破産法366条の12の規定の趣旨に反し無効であると解するのが相当である。」としている。なお、破産法366条の12は現行法の253条Tである。)
なお、破275条は、破産債権若しくは免責された債権を弁済させ、又は同債権につき破産者(個人に限る。以下同じ。)の親族その他の者に保証させる目的で、破産者又はその親族その他の者に対し、面会を強請し、又は強談威迫の行為をした者は、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処し、又はこれを併科すると定めているので、念のため申し添える。
(5)非免責債権
免責決定が確定しても免責されない債権がある(破253条但書)。租税等の請求権(1号事由)や破産者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(2号事由)などがそれである。
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6 別除権の行使
別除権は、抵当権、質権等の担保権を念頭においておけばよいであろう(破1条\)。別除権は破産手続によらないで権利を行使できる(破65条T)。例えば、破産手続開始の決定前に破産者が所有する不動産に抵当権を設定して登記を経由していた者は、本来の抵当権の実行手続によって弁済を受けることができる。別除権者は、この別除権の行使によって弁済を受けることができない債権の額に限って破産債権者としてその権利を行使することができる(破108条)。実務では、抵当権の実行手続によらず、管財人の協力を得て、任意売却により回収しているケースが多いが、抵当権の実行手続によらず、そのような方法で回収してもよい。
債権届出書には、別除権の予定不足額を記載する欄があるが、開始決定時は別除権の行使による回収額が未定であるので、予定不足額を記載する。現実の配当金を受領するには不足額を確定する必要があるが、債権届出書の提出時は多めに見積もっておいた方が得策である。
7 債権者として破産手続に対抗して採り得る法的手段
債務者が破産の手続きに入ったら、もはや採るべき手段はないというのが通常であろう。しかし、希に破産債務者が財産を隠匿などの不正行為をしていることもないではなく、そのような場合には、次のような手続きを採ることができる。その際には、事前に記録を閲覧・謄写して記録に現れている事実関係を把握しておいた方がよい。
@)破産の決定に対し即時抗告し、破産手続の開始そのものを争う(破33条T)。
A)管財人に連絡し、財産を取り戻すよう厳に要請する。
B)債権者集会に出席して、参加者及び裁判官、管財人に問題があることを知らしめ、管財人に適切に措置するよう、要請する。
C)免責についての意見申述期間内に、免責除外事由があるので免責を不許可とすべき旨の意見書を裁判所に提出する(破251条)。
D)免責許可決定が下されたときは、同決定に対し即時抗告をして争う(破252条V)。
また、他の破産債権者に対する次のような異議権の行使が認められている。
@)一般調査期日及び特別調査期日における他の債権者の届出債権に対する異議(破121条U、122条U)
A)配当表に対する異議(破200条)