履行延期の特約とは?履行延期、分納誓約と時効との関係を解説
償還方法を変更することに合意する場合(これはひとつの和解です。裁判外の和解は、しばしば示談と称される。)、当事者が民間同士であれば、通常、和解するについて何の法律上の制約はありません。しかし、自治体が保有する債権の場合には、法律上の制約があります。滞納金を分納したり、各回の償還金を減額する場合には、本来の履行期限を変更する必要が生ずる。履行期限を延期するためには、その要件を満たしていなければなりません。
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1 法令の確認
(1)自治令の規定
債権について、債務者が無資力又はこれに近い状態にあるとき(1号事由)、あるいは債務者が当該債務の全部を一時に履行することが困難であり、かつ、その現に有する資産の状況により、履行期限を延長することが徴収上有利であると認められるとき(2号事由)など、所定の事由に該当する場合においては、その履行期限を延長する特約又は処分をすることができます。この場合において、当該債権の金額を適宜分割して履行期限を定めることを妨げない(自治令171条の6T)。
履行期限後においても、履行期限を延長する特約又は処分をすることができます。この場合において、既に発生した履行遅滞に係る損害賠償金その他の債権は徴収すべきものとします(同条U)。
条文上、強制徴収公債権は除外されていますので、適用があるのは、非強制徴収公債権と私債権だけです。
履行延期は、私債権にあっては契約により、非強制徴収公債権にあっては処分により行います。
なお、強制徴収公債権については、徴収猶予(地方税法15条ないし同法15条の4)、又は、換価の猶予(同法15条の5、6)の例によります。
2 適用の場面
納付交渉の結果、合意が成立する場合のほか、調停、訴訟上の和解をする場面でも上記法令の適用が問題になります。
3 要件の確認
(1)1号事由
債務者が無資力又は無資力に近い状態であることが必要です。「無資力」とは、@)資産がないか、あっても他の債務の担保に充てられており、無価値に等しいこと、かつ、A)収入が生計若しくは事業を維持するに足りないと認められること、つまり返済余力がないことをいいます。
「無資力に近い状態」と、は、無資力とまではいえないが、これに準ずる場合をいうと解される。収入が少ないため、当該債権を約定どおりに返済させると生計若しくは事業を維持できなくなると認められる場合などがこれにあたります。
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(2)2号事由
@)当該債務の全部を一時に履行することが困難であること、かつ、A)債務者の現に有する資産の状況から判断して履行期限を延長することが徴収上有利であると認められること、が必要です。
@)は、収入が少ないため当該債務を一時に支払うことが困難であると認められることをいいます。他に優先して弁済すべき債務がある場合を除き、他に負債があるというだけでは「当該債務の全部を一時に支払うことが困難であるとき」にはあたらないと解します。他に多額の負債があっても、相応の収入があれば、法的手段による回収が可能なので(例えば、給料を差し押さえる、売掛金を差し押さえるなどの方法)、そのような場合は、文言上、「当該債務の全部を一時に支払うことが困難であるとき」とはいえないと解するからです。
A)は、資産がないか、あっても他の債務の担保に充てられており、強制執行をしても債権の一部しか回収ができず、強制執行をすると債務者が生活を維持できなくなったり、事業者が経営を維持できなくなり、その結果、支払いを猶予したり、分納に応じた方がかえって徴収上有利な場合をいうと解します。
(3)その他の事由
3号事由は、債務者について災害、盗難その他の事故が生じたことと当該債務の全額を一時に支払えないこととの問に因果関係があることが必要です。
5 履行延期の特約をする場合の留意事項
(1)滞納金について分納を認める場合、合意成立時までに発生している利息、遅延損害金(延滞金)の支払いを免除することは、原則としてできません(自治令171条の6U)。