担保権・抵当権とは?実行、競売、申立などの事務を解説|自治体債権
担保不動産競売
1 意義
担保不動産競売とは、競売による換価代金から債権の満足を受ける手続きであり、抵当権実行の中心的な方法である。
担保不動産競売については、強制競売に関する規定が準用され(民執法188条)、民事執行法に基づき基本的に同一の手続きでなされる。
2 強制競売との相違
強制競売には債務名義が要求されるが、担保不動産競売では不要である。
また、@)抵当権の存在、A)被担保債権の存在、B)被担保債権の履行遅滞、C)抵当権設定後に目的物件の所有権移転登記(仮登記を含む)等がなされているときには、その者への抵当権実行通知をなし、かつ送達されてから1ケ月以上が経過していることが必要である。
3 手続きの概要
(1)申立て
a)申立書
担保不動産競売の申立ては、「不動産競売申立書」を提出して行う。記載事項は次のとおりである。
@)債権者、債務者及び所有者並びに代理人の表示
A)担保権及び被担保債権の表示
B)担保権の実行又は行使に係る財産(目的物件)の表示
C)被担保債権の一部について担保権の実行又は行使をするときは、その旨及び範囲
実務上は、申立書本文に、当事者目録、担保権・被担保債権・請求債権目録及び物件目録を綴じ込み一体として作成する。
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b)添付書類
抵当権の存在を証するための法定文書(民執法181条T)。
区の債権回収場面においては、抵当権設定登記がなされているであろうから抵当権の登記に関する登記事項証明書(不動産登記簿謄本、同項B)を添付することになろう。
その他の添付書類は、不動産強制競売と同様である。
c)申立費用
申立費用は、不動産強制競売と同様である。
d)管轄
不動産所在地を管轄する地方裁判所
(2)申立後の手続きの流れ
差押え、強制換価、配当という手続きの流れは、不動産強制競売と同様である。
抵当権に基づく賃料への物上代位
1 意義
抵当権に基づく賃料への物上代位とは、抵当権者が、債務者が得ているアパート、マンション(抵当権の設定されている)等の月々の賃料を差し押さえて直接賃借人から支払いを受け回収に充てる手続きである(民法372条、304条)。
2 特徴
担保不動産競売手続や担保不動産収益執行手続よりも、簡易・迅速・低コストで債権回収ができる。
3 手続きの概要
(1)申立て
a)申立書
賃料への物上代位は、執行裁判所に「債権差押命令申立書(抵当権に基づく物上代位)」を提出して行う。記載事項は次のとおりである。
@)債権者、債務者、代理人、担保権設定者及び第三債務者(賃借人)の表示
A)担保権及び被担保債権の表示
B)担保権の実行又は行使に係る財産(差押債権(賃料債権))の表示
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C)被担保債権の一部について担保権の実行又は行使をするときは、その旨及び範囲実務上は、申立書本文に、当事者目録、担保権・被担保債権・請求債権目録及び差押債権目録を綴じ込み一体として作成する。
b)添付書類
@)抵当権の存在を証するための文書(民執法193条T)
抵当権の登記に関する登記事項証明書(不動産登記簿謄本)
A)代理人指定書
B)資格証明書(債務者や賃借人が法人の場合、代表者事項証明書や商業登記簿謄本などの全部事項証明書)
C)目録
法律で義務づけられているわけではないが、裁判所の事務処理のため、債権差押命令発令で使用する当事者目録、請求債権目録及び差押債権目録の余部も提出する。
添付数は、債権者、債務者及び第三債務者がそれぞれ1名のときは各目録について5部である。いずれかが1名増えるごとに各目録を1部ずつ追加する。
c)申立費用
@)印紙
1人の債務者に対して1個の抵当権で申し立てる場合4,000円
同一債務者に対して複数の抵当権で1通の申立書で申し立てる際には一抵当権ごとに4,000円が必要である。
なお、第三債務者(賃借人)の数は手数料に影響しない。
A)郵便切手
裁判所により額・内訳は異なるので、各執行裁判所に問合せされたい。
b)管轄
通常の債権執行と同様であり、原則として債務者の住所を管轄する地方裁判所
(2)申立て後の手続き
通常の債権執行手続きと同様であり、裁判所による債権差押命令の発令、債務者及び第三債務者(賃借人)への送達、債務者へ差押命令送達後1週間の経過により賃借人から直接取立てができる。
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担保不動産収益執行
1 意義
平成16年4月から施行された制度であり、裁判所が選任した管理人が賃料の回収、契約解除、契約締結等を行い、抵当権者が抵当不動産の収益から優先弁済を受ける制度である(民執法180条A)。
2 特徴
賃借人の特定が困難であるとか、不法占拠者がいる等、抵当権に基づく賃料への物上代位では対応できない場合に有効な手続きである。
しかし、物上代位とは異なり、管理費用や管理人報酬等のコストがかかるので収益の低い物件には不向きな手続きである。
3 手続きの概要
(1)申立て
a)申立書
担保不動産収益執行の申立ては、「担保不動産収益執行申立書」を提出して行う。記載事項は次のとおりである。
@)債権者、債務者及び所有者並びに代理人の表示
A)担保権及び被担保債権の表示
B)担保権の実行又は行使に係る財産(目的物件)の表示
C)給付義務者及び給付請求権の表示
D)被担保債権の一部について担保権の実行又は行使をするときは、その旨及び範囲
実務上は、申立書本文に、当事者目録、担保権・被担保債権・請求債権目録、物件目録、給付義務者及び給付請求権目録を綴じ込み一体として作成する。
b)添付書類
@)抵当権の存在を証するための法定文書(民執法181条T)。
区の債権回収場面においては、抵当権設定登記がなされているであろうから抵当権の登記に関する登記事項証明書(不動産登記簿謄本、同項3号)を添付することになろう。
A)代理人指定書
B)資格証明書(債務者や給付義務者が法人の場合、代表者事項証明書や商業登記簿謄本などの全部事項証明書)
C)公課証明書(固定資産税・都市計画税の額が表示されているもので、申立時における最新のもの)
D)現場案内図等(住宅地図、公図、建物所在図、建物図面、各階平面図)
E)目録
当事者目録、担保権・被担保債権・請求債権目録、物件目録、給付義務者及び給付請求権目録の余部各1通
c)申立費用
@)印紙
抵当権1個につき4,000円
A)郵便切手
不要(民事執行予納金から支出、東京地裁の場合)
B)登録免許税
確定請求債権額(1,000円未満は切り捨て)の1,000分の4(100円未満は切捨て)
C)民事執行予納金
管理費見込額等を勘案して決定する(最低でも100万円程度、東京地裁の場合)。
(2)申立て後の手続き
裁判所から担保不動産収益執行開始決定(収益執行開始、所有者の収益の処分禁止、管理人の選任、給付義務者が判明しているときは賃料の管理人への支払い命令)が出される。
管理人は、収益執行の開始決定された不動産について管理並びに収益の収取及び換価をなし、配当を実施する。
この制度は、今後事例の蓄積で様々な運用が行われることと思われる。