個人民事再生法手続の流れ、不同意の場合の対応|自治体の債権管理
1 個人民事再生手続の概要
(民事再生手続の特則であること)
経済的に破綻状態にある個人が経済生活の再建を図る方法の一つとして、個人債務者の再生手続を定めた「民事再生法等の一部を改正する法律」が成立し、平成13年4月1日から施行された。
上記改正法は、通常の民事再生手続の特則として、@)小規模個人再生に関する特則(以下「小規模個人再生」という。)、A)給与所得者等再生に関する特則(以下「給与所得者等再生」という。)、B)住宅資金貸付債権に関する特則(以下「住宅資金貸付債権手続」という。)を設けた。
個人民事再生手続という場合には、小規模個人再生と給与所得者等再生の2つを指す。住宅資金貸付債権手続は債務者が住宅ローンを抱えている場合の特則で、個人民事再生手続のみならず、通常の再生手続にも適用がある。
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(個人民事再生手続の概要)
個人再生は、一定の要件を満たすことを前提に、裁判所の認可を受けた再生計画(総債務の一定割合を原則3年間で分割弁済することにより、その余の債務は免除となることを主な内容とするもの。)を定めること等により、当該債務者とその債権者との間の民事上の権利関係を適切に調整し、当該債務者の経済生活の再生を図ることを目的とする裁判上の手続きである。地裁では、申立後約6ケ月で再生計画の認可・不認可の決定がなされるようスケジュールが組まれている。
個人民事再生手続の流れは以下のとおりである。上記個人民事再生手続はそれぞれ枝葉の部分は異なるものの、手続きの基本的な流れは同じであって、「再生計画」、即ち、弁済案が手続きの中心をなしている。
@再生手続き開始の申立て(民再21、221、239条)
(保全処分)
(開始申立て棄却決定)
↓
A手続き開始決定(民再222、224条)
↓
B再生債権届出・みなし届出(民再224、225、244条)
(再生債権届出に対する異議、評価)
↓
C再生計画案の作成・提出 →再生手続きの廃止
↓
D書面決議(民再230条D)、債権者の意見聴取(民再231、240、241条)
(再生計画不認可決定)
↓
E再生計画認可決定(民再231条@、民再241条@)
→認可決定確定、発行、手続き終結
→再生計画の変更
→ハードシップ免責
→許可後の手続き廃止(計画遂行の見込みなし)
→再生計画の取り消し(計画の不履行など)
↓
F計画遂行完了
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(個人民事再生手続の内容)
(1)小規模個人再生
小規模個人再生は、債務総額が5,000万円以下の個人債務者で、かつ継続的に又は反復して収入を得る見込みがある者が利用できる手続きである(民再221条T)。上記5,000万円(債務総額)には住宅ローンや別除権の予定不足額を含まない(以下、「債務総額」はこの意味に使う。)。
この手続きでは、弁済すべき額(最低弁済額)は、債務総額が3,000万円以下のときは、債務総額の5分の1または100万円のいずれか多い方の金額であるが、債務総額が100万円以下のときは全額、債務総額の5分の1が300万円をこえるときは300万円である。そして、債務総額が3,000万円をこえ5,000万円以下のときは、債務総額の10分の1である(つまり、上限は500万円)。上記最低弁済額を原則として3年間で支払えば、残額は免除になる(民再232条U)。
この手続きでは、債権者集会は開かれず、書面等による投票の結果、弁済計画案について、議決権者及び議決権総額のいずれにおいても、不同意、即ち、反対が半分をこえないことが認可の条件になっている(民再230条Y。積極的な同意が半分をこえることは要件とされていない)。
(2)給与所得者等再生
給与所得者等再生は、小規模個人再生の対象債務者中、「給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者で、その額の変動の幅が小さいと見込まれる者」が利用できる手続きで(民再239条T)、小規模個人再生とともに自由に選択して利用するごとができ、小規模個人再生のさらなる特則として位置づけられる。
この手続きにおいては、小規模個人再生と異なり、債権者による再生計画の決議手続はなく、債権者の意見聴取のみを行う(民再240条)。意見聴取は、債権者の同意・不同意を求めるものではなく、再生計画について不認可事由がないかどうかについて、債権者からの情報を募る手続きにすぎない。それ故、債権者の同意(決議)なく、強制的に債務の一部免除を受けることが可能である。
この手続きにおける最低弁済額は、2年分の可処分所得(再生計画案提出前2年分の収入から税金、社会保険料、政令で定める最低限度の生活費を控除した金額)である。
上記最低弁済額を原則として3年間で支払えば、残額は免除になる(民再232条U)。
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(3)住宅資金貸付債権手続
住宅資金貸付債権手続は、民事再生手続において、債務者が抱える住宅ローン債権のうち、法が定める一定の要件を満たすものを「住宅資金貸付債権」とし、債務者が再生計画において、「住宅資金貸付債権」について「住宅資金特別条項」を定めた場合には、住宅ローン融資時に定められた返済計画を修正して、債務者が住宅ローンの返済を可能とする制度である。住宅ローン以外の債務を整理しながら住宅ローンの返済を続けることにより、債務者の生活基盤である住宅を確保することが可能となる。
2 個人民事再生手続の開始原因
個人民事再生手続の開始原因は、通常の民事再生手続のそれと同じである。
通常の民事再生では監督委員が選任されるが、個人民事再生では個人再生委員が選任される(民再223条T)。必須ではないが、東京地裁では全件について選任している。監督委員同様、債務者の財産についての管理処分権はないが、再生手続を監督指導する重要な役割を担っている。
3 債権届出書
民事再生手続に参加するには、届出期間内に、債権届出書に所要事項を記載したうえ、これを裁判所に提出しなければならない(民再94条T)。
破産同様、民事再生手続開始決定があると、知れたる債権者には裁判所から「民事再生手続開始決定」、「民事再生手続開始通知書」とともに「債権届出書」などが送られてくる。
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4 再生計画
(1)小規模個人再生の場合
債権届出がなされると、債権の調査が行われ、その債権調査手続が終了すると、債務者は再生計画案を作成し、裁判所に提出することになる(民再163条T)。裁判所は、再生計画案につき審査を行った後、これを書面決議に付する旨の決定を行い(民再230条V)、再生計画案が回答書とともに債権者に送られて来ることとなる。回答期限は上記決定の日から2週間以上2ヶ月以下の範囲内で定められる(民再規則131条T)。
前述したように、反対が議決権の人数及び金額の半分をこえると、可決しなかったことになるが、それを満たさなければ可決があったことになる。そこで、自治体としては書面決議にどう対応すればよいかが問題となる。
再生計画案は債権の一部免除と支払の猶予がその内容となっている。自治体が債権の一部を免除・放棄したり、支払いを猶予するには前述したとおりの要件を満たさなければならない。それ故、要件を満たさない限り不同意の書面投票をすべきであるとの意見もあり得る。
しかし、民事再生手続においては、たとえ自治体が不同意の書面を出しても他の債権者が不同意の投票をしなければ可決されてしまう。つまり、不同意の書面を出さないことが免除・放棄あるいは履行期限延期の特約の措置を採ったことにはならないのであって、要件を満たす必要はない。この場合に準拠すべきは自治法・自治令や条例ではなく、民再である。
そうであれば、一般の債権者と同様な立場から、同意・不同意を決すればよいのであって、特に問題がなければ不同意の書面を出す必要はない。
なお、再生計画案が否決されると、あとは破産しかなくなることも併せ考える必要がある。民事再生においては、再生計画による弁済が破産の場合よりも有利であることが要求されている(民再174条UC)。再生計画案はこの要件を満たしているかどうか事前のチェックを受けており、破産に移行した場合よりも有利である可能性は高い。
(2)給与所得者等再生の場合
この場合には、書面による決議ではなく、単に意見を聴取するだけである。特に意見がなければ出さなくてもよい(民再240条U)。しかし、何か問題があると考えるケースでは、所定の回答期限までに、問題点を指摘した意見書を提出すべきである。
5 別除権の行使
破産と同一である。
6 個人民事再生手続に対抗して採り得る債権者としての対応
多くのケースでは、申立てや再生計画案に特に問題はないであろう。しかし、ときには手続開始原因の要件を満たしていないもの、破産の免責除外事由に該当する不正な行為を行っている者などがいないとは限らない。そのような場合には、次のような手続きを採ることができる。その際には、事前に記録を閲覧・謄写して記録に現れている事実関係を把握しておいた方がよい。
@)手続開始決定に対し即時抗告し、民事再生手続の開始そのものを争う(民再36条T)。
A)個人再生委員に連絡したうえ、間題点を指摘し、調査を要請する。
B)小規模個人再生では書面決議で不同意の投票をする。給与所得者等再生は、裁判所に意見書を出して問題があることを指摘して再生計画案に反対であることを示す。