保全処分の流れとは|自治体の債権管理

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保全処分の流れとは|自治体の債権管理

債務者に信用不安が生じたということは、債権を回収できなくなるおそれが増大したことを意味する。そこで、何か財産があれば直ちにこれを押さえておく必要がある。

 

ここでは、その場合に有効な法的手段となる仮差押えについて説明する。仮差押えは保全処分の1つであり、保全処分一般に関することについても若干触れることとする。

 

1 法令の確認

 

地方公共団体の長は、債権を保全するため必要があると認めるときは、債務者に対し、仮差押え若しくは仮処分の手続きを採る等の措置を採らなければならない(自治令171条の4U)。

 

この規定は公債権、私債権双方に適用がある。但し、自治法231条の3第3項により督促した強制徴収公債権については直ちに滞納処分に入れるので、保全処分を使う必要がない。

 

2 保全処分の意義

 

仮差押え、係争物に関する仮処分及び仮の地位を定める仮処分の3種類を総称して民事保全という(民事保全法1条。以下「民保」と略す。)。

 

これらはいずれも、債権者が債務者に対し、民訴法の規定に基づく本案訴訟(本裁判)によってその存否を確定できるような権利又は権利関係(被保全権利)を有し、かつ、その存否確定までの間の暫定的な保全措置の必要(保全の必要)がある場合に、裁判所にその措置のための命令(保全命令)を求め、これを執行する手続きである。

 

なお、保全処分の種類は「仮差押え」と「仮処分」の二つがあり、仮差押えの対象は「不動産」「動産」「債権」があり、仮処分は「係争物に関わる仮処分」と「仮の地位を定める仮処分」がある。さらに係争物に関わる仮処分は「処分禁止の仮処分」と「占有移転禁止の仮処分」がある。

 

3 仮差押え

 

(1)意義

 

金銭の支払いを目的とする債権について、強制執行ができなくなるおそれがあるとき、又は、強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるとき(例えば、債務者が財産の毀損、贈与、隠匿、担保権の設定などを行うおそれのあるときなど)に申し立てることができる(民保20条)。

 

仮差押えの対象は、不動産、動産、債権など原則として債務者の所有にかかる全財産である。

 

(2)手続きの概要

 

以下の順番が手続きの流れとなっている

 

@申立ての準備(申立書、証明書類の作成。添付書類の準備)

 

A申立書などの提出(地方裁判所の事件受付に提出)

 

B裁判官との面会(担保(保証金)の金額の決定。通常、債権請求額あるいは仮差押え物件の固定資産評価額の2〜3割程度)

 

C立担保の手続き(法務局に出向いて供託手続きを行い、供託書をもらう)

 

D決定正本の受領(地方裁判所の命令係に供託書の写し(照合のため原本も持参する)や当事者目録、請求債権目録などの目録、郵券などを提出。不動産仮差押えの場合は登記用登録免許税として収入印紙を提出する。

 

E保全の執行

 

動産仮差押えの場合:執行官に執行申立て(執行官室に執行申立て書、仮差押え決定正本、予納金を持参して申し立てる)

 

不動産仮差押えの場合:裁判所から登記嘱託

 

債権仮差押えの場合:裁判所から決定正本送達

 

F事後処理(担保取り消しの申し立てと供託原因消滅証明申請を裁判所に対して行い、供託原因消滅証明書をもらって、法務局に行き、供託した保証金を返してもらう)

 

 

 

(3)管轄裁判所

 

本案訴訟の管轄裁判所又は仮に差し押さえるべき物の所在地を管轄する地方裁判所が管轄する(民保12条T)。

 

(4)申立書の記載事項

 

申立書には、当事者、請求債権、申立ての趣旨、申立ての理由、疎明方法を記載する。当事者、請求債権、仮差押えの目的物は目録に表示する。

 

申立ては、その趣旨並びに保全すべき権利(被保全権利)と保全の必要性をあきらかにして、これをしなければならないことになっており(民保13条T)、申立ての理由には被保全権利と保全の必要性を記載する。

 

申立ての趣旨は、申立ての結論であり、仮差押えの場合、「前記請求債権を保全するため、……は、仮に差し押さえる。」と文言が決まっているので、書式を見て記載するとよい。

 

被保全権利は保全すべき権利又は権利関係のことをいい、申立書には当該権利の具体的事実を記載する。貸付債権についていえば、被保全権利は、金銭消費貸借契約に基づく金銭支払請求権であり、申立書には、契約日、契約の内容(元本、利息、支払方法、返済履歴等)を記載する。

 

保全の必要性は、直ちに保全しておかないと債権が回収できなくなるおそれがあることを示す具体的事実を記載する。

 

(5)添付書類

 

被保全権利と保全の必要性は疎明しなければならないので(民保13条U)、これらを裏付ける証拠を疎明資料として添付する。その他に資格証明書、訴訟委任状(弁護士に委任する場合)等当事者資格を裏付ける資料、登記簿謄本等仮差押えの対象に関する資料、不動産についての固定資産評価証明書等保証金の金額を決めるために必要な資料などを添付する。職員が行う場合は、委任状のかわりに代理人指定書を添付する。

 

添付書類ではないが、債権の仮差押命令を申し立てるときは、第三債務者に対する陳述催告の申立書も併せて提出する。その回答により債務者の第三債務者に対する債権の存否、支払の意思を確認する(民保50条X、民執法147条T)。

 

(6)担保の提供

 

仮差押えには必ず担保が必要となる(民保14条)。仮差押えの担保は、違法・不当な保全処分の執行によって債務者が被った場合の損害を担保するものである。裁判所の裁量により、被保全権利の額や保全目的物の価額などを総合的に判断して決定される。担保を提供すべき期間は、担保額告知日から3〜7日以内とされることが多い。担保提供の方法は、通常は、担保を立てることを命じた裁判所又は保全執行裁判所の所在地を管轄する地方裁判所の管轄区域内の供託所である。

 

(7)審尋

 

裁判所が債権者に対してだけ審尋を行い、申立書記載の主張及び疎明について釈明を求める場合がある。

 

(8)その他の留意事項

 

a)保全執行

 

執行方法は仮差押えの対象により異なる。

 

b)不服申立手続

 

仮差押えは、申立人(債権者)の主張、疎明資料に基づいて決定が下され、相手方(債務者)が主張を述べたり、疎明資料を提出する機会はない。それ故、誤った決定が下され、相手方に損害を与えることもあり得る。そのため、担保を提供することになっているが、他に相手方のために不服申立ての手続きが定められている。保全異議(民保26条)、保全取消(民保37〜39条)、保全抗告(民保41条)がそれであるが、債権管理の担当者としては、こうした不服申立ての手続きが存することを記憶しておけば足りるであろう。

 

c)担保取消・担保取戻

 

本案訴訟において、申立人(債権者)の勝訴判決が確定した場合などには担保をつけておく必要がなくなる。その場合には担保取消の手続きを採ることにより供託金を取り戻すことができる(民訴法79条)。

 

保全執行としてする登記などができなかった場合など、債務者に損害を生じないことが明らかである場合において、保全命令の申立てを取り下げたときなどは、担保取消の手続きを経ることなく、申立人は保全命令を発した裁判所の許可を得て、担保を取り戻すことができる(民保規則17条T)。

 

4 保全処分以外の保全措置

 

保証人の変更、債権者代位権の行使(債務者が自らの権利を行使しないことによる債権者の不利益を回避するため、債務者に代位して債務者の権利を行使することができる場合がある(民法423条)。)、詐害行為取消権の行使(債務者がその引当てとなる一般財産を減少させる行為をした場合に、債権者がこれを取消すことができる場合がある(民法424条)。)、時効の中断措置(民法147条)等がある。

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