履行期限の繰上げの意味とは?納期との違い|自治体の債権管理
債務者が履行を遅滞しているということは債務者に信用不安が生じているということである。
信用不安が生じた場合、期限の到来を待っていたのでは回収できるものも回収できなくなってしまう。信用不安が生じた場合には、期限の利益を喪失させて残金を一括請求できるようにしたい。
ここでは、期限の利益を喪失させる場合だけではなく、履行期限を繰り上げて一括請求できる場合について説明する。
1 法令の確認
地方公共団体の長は、債権について履行期限を繰り上げることができる理由が生じたときは、遅滞なく、債務者に対し、履行期限を繰り上げる旨の通知をしなければならない(自治令171条の3本文)。但し、履行延期の特約等の措置を採ったとき、その他特に支障があると認める場合は、この限りではない(同条但書)。
同条については、適用を除外する旨の定めがない。したがって、公債権、私債権、双方に適用がある。もっとも、自治法231条の3第1項により督促した強制徴収公債権については、同条3項により滞納処分の例により処分することができるので、履行期限の繰上げについても地方税法の規定によることとなるので、実際上は自治令171条の3の適用は殆どないことになる。
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2 繰上事由
(1)法令に基づく場合
a)民法137条
@)債務者が破産手続開始の決定を受けたとき
A)自ら担保をき滅し、又はこれを減少させたとき
B)担保を提供する義務を負いながらこれを供しないとき
これらは期限の利益の喪失事由とされている。
債務者の信用が全くなくなり、債権者をしてなお期限の到来まで請求を猶予させることは、甚だしく不当だからである。
b)その他の規定
@)相続について限定承認があったとき(民法930条)
A)財産分離の請求があったとき(同947条)
B)相続財産法人が成立したとき(同957条)
C)会社が解散したとき(会社法501条T)
これらはいわゆる期限の利益の喪失事由ではない。繰上事由とされているのは、財産を清算して配当する必要上、期限の到来を待っていたのでは、清算事務に支障を来すからである。なお、法令により繰上事由とされているのは上記が全てというわけではない。
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3 事務処理手続
(1)期限の利益の喪失条項に基づく繰上げの場合
作成された借用書を用いて行った契約について上記喪失事由に該当する事実があったときは、自治令171条の3の規定に則り、遅滞なく期限の利益を喪失させる旨の通知をしなければならない。
この場合の事務処理手続きは以下のとおりとする。
@)債務者が、返済期限後、月賦払いはおおむね6ケ月以上、半年賦は1年(2回)以上支払いを怠ったときは、支払期限を指定し、それまでに支払いがないときは期限の利益を喪失させる旨と法的手続きを採る旨を予告する通知を発する。連帯保証人に対しても同様である。
同通知は書面により行い、債権管理台帳に同通知を発した年月日、起案者名等を記録するとともに、同通知の写しをファイルに綴っておく。
なお、債権保全上、緊急を要するときは、上記手続きを省略し、次のA)の手続きを採る。
A)同通知に指定した期限までに支払いがないときは、速やかに期限の利益を喪失させた旨を通知するとともに、残元金及び遅延損害金について支払期限を指定して(督促する書面を発した日から15日以内)これを一括して請求する旨督促し、併せて上記期限までに支払いがないときは法的手続きを採る旨付言する。
上記督促等は、支払いを強く促す意味からも時効の起算点をはっきりさせる意味からも配達証明付き内容証明郵便によることが望ましい。
上記督促等を行ったときは、債権管理台帳に督促等を発した年月日、期限の利益の喪失事由、起案者名等を記録するとともに、同通知の写し(内容証明郵便によるときは写しではなく、謄本)をファイルに綴っておく。
(2)その他の場合
繰上事由が発生したときは、直ちに、繰上事由が発生したことを通知するとともに、元本残額及び延滞金(利息、遅延損害金)について支払期限を指定して(督促する書面を発した日から15日以内)これを一括して請求する旨督促し、必要に応じ、上記支払期限までに支払いがないときは法的手続きを採る旨付言する。