私人に対する支出事務の委託とは|公務員の財務

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私人に対する支出事務の委託とは|公務員の財務

(1) 私人に対する支出事務の委託の趣旨

公金は広い意味で住民財産であることから、その取扱いの責任を明確にし、公正で適切な取扱いが要求されます。このため地方自治法では、私人に公金(※)を取り扱わせることを原則禁止しています。しかしながら、遠隔の地での支払等銀行その他の私人に公金を取り扱わせた方が事務の効率化を図れる場合であって、私人に公金を取り扱わせても責任関係が不明確とならず、公正で適切な取り扱いが可能なものを法規によりあらかじめ指定し、この範囲で例外的に私人に公金の取扱いを認めています。また、その方式は委託方式となります(地方自治法第二百四十三条)。
※ 公金の定義
「地方財務実務辞典」(学陽書房)のP132 では、「公金には、地方公共団体の所有に属する現金とする狭義の公金と、地方公共団体又はその機関の管理に属する現金とする広義の公金を指す場合がある」としています。このうち、私人に対する支出事務の委託に係る公金は「広義の意味での公金である」と解釈されています。
また、「行政実例」では、公金とは「法令上当該団体又はその機関の管理に属する現金及び有価証券をいう。」(行政実例(平成23.1.12))としており、公金に当たるか否かはこの範囲で判断することとなります。
このことから、「地方財務実務辞典」では、法令に根拠のないものは公金の範囲外と解釈されます。また、法令に根拠があっても、地方公共団体又はその機関が管理することとなっていない現金は、公金の範囲外と解釈され、日本学校安全会に係る児童の共済掛金等は公金ではないとされています。なお、学校におけるPTAに係る機関が徴収する経費は、学校長が保管していても公金と判断されません。

 

(2) 私人に委託することができる支出事務の範囲

私人が支出できるのは、資金前渡できる経費に限られ、地方自治法施行令第百六十一条第一項第一項第十六号及び第十七号を除きます。会計規則等によりますが、具体的には次に掲げるような経費に限られます。
@ 外国で支払をする経費
A 遠隔の地又は交通不便の地域で支払をする経費
B 報奨金その他これに類する経費
C 非常災害のため即時支払を必要とする経費
D 諸払戻金及びこれに係る還付加算金

 

(3) 私人の公金の管理方法の概念

支出事務の委託に係る公金は、私人に交付されたとしても、公金の性質は失われません。
このため、委託を受けた私人は、係る債権者に支払が終わるまでの間は、「善管注意義務」(※)をもって保管しなければなりません。
また、市は私人に公金を交付したことで、係る債権者への債務が履行される訳でなく、その私人が、係る債権者へ公金を支払った段階で、当該債務の履行がなされたと解釈されます。そのため、私人が、保管中に公金を亡失等し、その支払を終えていない場合は、市は当該債権者に対し、支払義務は依然として残ります。一方市はその私人に、民法上の債務不履行又は不法行為による損害賠償責任を追及することができるに過ぎません。
このほか、交付された資金に残があれば、精算して私人から返還させますが、その際利子等が発生していたときは、当該利子等の権利は市に帰属します。しかしながら、普通地方公共団体ではペイオフ後、公金の管理方法として決済性普通預金で預金することを求めています。このことから私人に委託した場合でも、預金を必要とする場合は、決済性普通預金での管理を求める必要があり、このように利子等が発生することは原則ないと考えられます。
※ 「善管注意義務」とは、過失の前提として要求される注意義務の程度を表す法律用語です。この注意義務を負うと、その保管について、相当程度の注意義務を負うこととされています。

 

(4) 支出事務の委託を受けた者の検査について

支出事務を委託した場合、会計管理者が必要あると認めるときは、当該委託に係る支出事務について検査することができます。地方自治法施行令では、歳入の徴収又は収納の事務の委託を受けた者の検査の規定を準用することとなっています。歳入の徴収又は収納の事務の委託を受けた者等の検査は、検査方法に関して別に定めることとしています。このことから、支出事務を委託したものについて検査の必要がある場合は、会計管理者に別途協議してください(地方自治法施行令第百六十五条の三第一項・第三項)。

 

(5) 支出事務の委託に係る事務の流れ

@ 支出事務の委託者の決定
会計規則等の規定に掲げる資金(前頁「(2) 私人に委託することができる支出事務の範囲」参照)であって、私人に公金を取り扱わせたほうが便宜的なもののうち、収支命令者が必要と判断した経費について、支出事務の委託の実施を会計管理者と協議し、委託が適当と判断された場合は、収支命令者が受託者を選定します。
支出事務を私人に委託する場合の法律関係は契約関係であるため、地方自治法等の規定による競争入札又は随意契約等により、必要な契約手続を経て選定します。契約条件として、「受託する私人の公金の取扱い等に関する知識の担保」はもちろん、「個人情報や行政情報等の秘密保持の特約」などは通常の契約と同様に考えます。選定結果については、別途会計管理者に報告するものとします。
また、私人の支出事務の委託は、委託の範囲を地方自治法施行令に制限的に列挙されていることから、委託を受けた私人がさらに他の私人に委託するといった再委託は、法令上の明確な根拠がない限り許されません。
このほか、委託の性質上、その選任には慎重を期すべきものと考えることはいうまでもありません。

 

A 債権者への通知等
私人に公金の支払事務を委託する場合は、債権者に対して支出事務受託者の氏名及び支払をする金額、内容、場所、期日、期間その他必要と認める事項を記載した支払案内書を送付します。ただし、その債権者が証書その他の支払を受けるべきことを証する書類を所持しているとき又は災害その他の事由が発生した場合において支払事務を処理する上で支払案内書の送付の必要がないとき若しくは送付が困難であると認められるときは、必ずしも送付する必要はありません。

 

B 支出命令書の起票
収支命令者は、支出事務を受託するものに公金を支出する場合、資金前渡の例による支出命令書を作成し、支出事務の委託を受けた私人の「請求書兼支払金口座振替依頼書」などを添付し、会計管理者に送付することとなります。

 

C 受託者の支払事務
支出事務の委託を受けた私人が支払をする場合は、その債権者が収支命令者から送付を受けた支払案内書又は証書その他の支払いを受けるべきことを証する書類を所持しているときは、その書類を提示させなければなりません。ただし、当該書類を債権者に交付できなかった場合は提示させる必要は有りません。

 

D 支払後の事務
支出事務の委託を受けた私人の支払が終了した後は、収支命令者はその私人に報告させ、又、領収書等を提出させます。この上で、収支命令者は、前渡金の精算の例により精算します。精算の期限等は次頁の表にあるとおりです(地方自治法施行令第百六十五条の三第二項・第三項)。

 

毎月分の前渡金 必要期間分の前渡金 分割の前渡金 随時の前渡金
精算の期限(※) 翌月1日から5日まで 必要期間終了日の翌日から5日以内 支払期日の翌日から5日以内 用件終了日の翌日から5日以内に作成
残金の繰越し 翌月に繰越し可能 精算し繰越し可能 次回に繰越し可能 原則は不可
追加資金前渡 その都度精算すれば可能 その都度精算すれば可能 不可 不可

 

※ 精算の期限は、会計室にその精算書が到着する日をいいます。このため、精算可能な時点で、速やかに受託者に精算に必要な書類を提出させ、それを受け市も速やかに精算書を起票するようにしてください。この期限に係る起算日などは、前渡金と同様となります。
※2 年度末時点の精算残余金について、翌年度の相当歳出に振り替えることができることとなっていますが、実際は、旧会計年度の前渡金は一度精算し、その残金は戻入した上で、新会計年度に新たに前渡金を受けることが通常となっています。

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