源泉徴収所得税に係る事務 |公務員の金銭会計
1 源泉徴収所得税の取扱い
(1) 源泉徴収所得税における源泉徴収制度とは
「源泉徴収制度」とは、会社や個人が、人を雇って給与等を支払ったり、税理士、弁護士、司法書士などに報酬を支払ったりする場合は、その支払の都度、支払金額に応じた所得税等を支払う金額のうちから所定の所得税をあらかじめ差し引く(天引きする)方法によって徴収し、その徴収した所得税を一定の期限までに国に納付する制度をいいます。
(2) 源泉徴収義務者
「源泉徴収義務者」とは、所得税を徴収して国に納付する義務を負う者、つまり、その所得の支払者をいいます。具体的には、給与所得等又は報酬・料金等の支払いをする学校や官公庁、人格のない社団、財団などであって、該当する所得の支払者は全て源泉徴収義務者になります。このため、市は源泉徴収義務者になります。
しかしながら、次に該当する者は所得税の源泉徴収の義務はありません。
@ 常時2人以下のお手伝いさんのような家事使用人だけに給与や退職金を支払っている者
A 給与や退職金の支払いがなく、弁護士報酬などの報酬・料金だけを支払っている者(例えば、給与所得者が確定申告などをするために税理士に報酬を支払っても源泉徴収する必要はありません。)
(3) 給与所得の判断
支払った報酬等が給与所得に該当するか否かは次の@からBまでを参考に判断しつつ、不明な点は、具体的に税務署に確認するようにします。
@ 給与所得か否かの基本的な判断方法
給与所得であるか事業所得であるかの判断は、雇用関係の有無によります。これに基づく収入であれば原則給与所得として扱います。
この雇用関係とは一般に雇用契約の有無によって判断されますが、雇用契約は、法令上不要式契約の一種であり、その契約の成立に文書は必要としません。このため、仮に委嘱状という形式で委嘱したものであるとしても、その内容から雇用関係があると判断されることもあります。
このため、実際の雇用形態などから給与所得又は事業所得であるか否かを判断することとなりますが、実際には判然としないことも多々あります。その場合は、次頁のアからウまでに掲げる内容を検討し、総合的に考慮して判断します。ただし、当該内容の反対解釈は成立しないので、その検討に当たり注意が必要です。例えば、代替性があることは、給与等該当性を否定する重要な要素の一つですが、代替性がないからといって、そのことが給与等該当性を肯定する重要な要素になるとはいえません。
それでも判然としない場合は、税務署に実例を交えて必ず確認し、丁寧に源泉徴収事務を進めるべきです。
なお、この解釈は、国税庁のHPにある「源泉徴収所得税における給与等の課税の取扱い」(税務大学校研究科第 47 期研究員による論文)の一部を整理し、再構成して掲載したものです。また、この論文は、昭和 56 年4月 24 日の最高裁判所第二小法廷判決(昭和 53 年(行ツ)90 号)を踏まえて整理されたものであると考えられます。このため、給与等に該当するか否かを判断するため、必要に応じて、当該論文(国税庁及び論文名によりインターネットで検索可能です。)及び判例を参照してください。
ア 給与等該当性を肯定する重要な要素
(ア) 時間的拘束性
就業時間が指定されている又は就業時間が厳密に管理されている場合
(イ) 報酬の労務対価性
報酬が役務提供した時間又は日数を基礎として計算され、業務の結果に関係なく支払われている場合
(ウ) 事業組織的従属性
就業規則等に服し、違反等に対しては懲戒処分等もあり得るなど、使用者の事業組織へ組み入れられていると認められる場合
イ 給与等該当性を否定する重要な要素
(ア) 代替性
業務遂行に当たり、自由判断で補助者の使用が可能で、当該補助者に支払う報酬を本人が負担している場合
(イ) 費用負担
業務遂行上必要な工場、機械設備及び車両等の生産手段を本人が所有し、当該生産手段が労働力と一体となって業務に使用されている場合等
ウ 給与等該当性を肯定又は否定する補強要素
(ア) 業務遂行上の指揮監督
業務遂行方法の決定における本人の裁量の度合いや業務遂行過程における使用者の監督状況の度合いなどから、業務遂行上の指揮監督が強いと認められる場合は、給与等該当性を肯定する補強要素となり、弱いと認められる場合は否定する補強要素となる。
(イ) 時間的拘束性
就業時間の決定における本人の裁量の度合いなどから、時間的拘束性が強いと認められる場合は、給与等該当性を肯定する補強要素となり、弱いと認められる場合は、否定する補強要素となる。
(ウ) 諾否の事由
使用者から仕事の依頼を拒否できない場合は、給与等該当性を肯定する補強要素となり、拒否できる場合は否定する補強要素となる。
(エ) 危険負担
業務遂行上で発生する危険又は損失を本人がもっぱら負担している場合は、給与等該当性を肯定する補強要素となり、負担していない場合は否定する補強要素となる。
A 各種委員会に対する委員報酬について
国又は地方公共団体の各種委員会(審議会、調査会、協議会等の名称のものを含みます。)の委員報酬は給与等とします。ただし、費用弁償を受けないものに対して支給される報酬は、その機関として支払われるものが1万円未満の場合は非課税とし、その判断は個別の委員会ごとに判断します。
この場合の各種委員会とは、条例設置等の委員会に限らず、又、その名称にも制限はありません。例えば、○○選考会、○○審査会、○○審議会、○○協議会、○○会議、○○審査会なども含まれます。
給与等と判断される理由ですが、それは各種委員会が「委員会形式」で運営されているためです。この「委員会形式」とは、委員報酬の支払基準が、出席時間又は出席日数等時間的拘束性を踏まえたものであって、かつ、労務対価性がないものをいいます。このような委員会は、市に設置された委員会のほとんどが該当するものと考えられます。
委員会形式に該当しない委員会などがある場合は、個別に実例を交え税務署に確認するようにします。
このような委員報酬は給与等として扱い、その源泉徴収所得税の算出も、給与所得の源泉徴収税額表(月額表・日額表)を使用して行います(所得税法第 28 条《給与所得》款関係 28−7(国税庁))。
B 地方自治法の規定による費用の弁償について
次に掲げる費用弁償及び報酬は、給与等として扱い、その源泉徴収所得税の算出も、給与所得の源泉徴収税額表(月額表・日額表)を使用して行います(所得税法基本通達第 28 条《給与所得》関係 28−8(国税庁))。
ア 普通地方公共団体の議会の議員が職務を行うために要する費用の弁償(議員報酬、費用弁償及び期末手当)(地方自治法第二百三条第二項)
イ 普通地方公共団体の委員会の委員、非常勤の監査委員その他の委員、自治紛争処理委員、審査会、審議会及び調査会等の委員その他の構成員、専門委員、投票管理者、開票管理者、選挙長、投票立会人、開票立会人及び選挙立会人その他普通地方公共団体の非常勤の職員(再任用短時間勤務職員及び任期付短時間勤務職員を除きます。)に対しする報酬及び費用弁償(地方自治法第二百三条の二第二項及び第三項)
(4) 給与所得の源泉徴収税額表の月額表又は日額表の適用
給与の支給区分による税額表の適用は、次のとおりです。
給与の支給区分1 | 給与の支給区分2 | 適用する税額表 | 適用する欄 |
---|---|---|---|
主たる給与 |
月ごとに支払うもの |
月額表 |
甲欄 |
毎日支払うもの |
日額表 | ||
従たる給与 |
月ごとに支払うもの |
月額表 |
乙欄 |
毎日支払うもの |
日額表 | ||
日雇賃金(※) | 日額表 | 丙欄 |
※ 日雇賃金を適用するものとは、次のいずれにも該当するものをいい、継続して2か月を超えた場合は、その給与の支払方法等に応じ、甲欄又は乙欄が適用されます。
@ 日ごとに雇用されていること。
A 継続して2か月以内の雇用であること
(5) 報酬、料金、契約金及び賞金などに対する源泉徴収
@ 報酬、料金、契約金及び賞金の範囲
所得税法第二百四条第一項各号並びに第百七十四条第十号及び租税特別措置法第四十一条の二十に規定されている報酬、料金、契約金及び賞金が源泉徴収の対象となります。
【報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書提出範囲】
区分 | 提出範囲 |
---|---|
ア 外交員、集金人、電力量計の検針人及びプロボクサーの報酬、料金 | 同一人に対する同年中の支払金額の合計が五十万円を超えるもの |
イ バー、キャバレー、ナイトクラブその他これらに類する施設でフロアにおいて客にダンスをさせ又は接待をし、遊興若しくは飲食をさせるものにおいて客に侍してその接待をすることを業務とするホステスその他の者のその業務に関する報酬又は料金 | |
ウ 広告宣伝のための賞金 | |
エ 社会保険診療報酬支払基金法(昭和二十三年法律第百二十九号)の規定により支払われる診療報酬(社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬) | 同一人に対する同年中の支払金額の合計が五十万円を超えるもの。ただし、国公立病院その他の公共法人等に支払うものは提出する必要はありません。 |
オ 馬主が受ける競馬の賞金 | 同年中の1回の支払賞金額が七十五万円を超える支払を受けた方に係るその年中の全ての支払金額 |
カ プロ野球・プロサッカー・プロテニスの選手、プロレスラー、プロゴルファー、プロボウラー、レーサーなどが受ける報酬及び契約金 | 同一人に対する同年中の支払金額の合計が五万円を超えるもの |
キ アからカまで以外の報酬、料金等(※3) |
※ アからキまでに掲げる報酬、料金、契約金又は賞金(以下「報酬等」といいます。)のうち、次の@からCまでに該当する場合は、報酬等に係る源泉徴収義務及び支払調書の提出義務は生じません(所得税法第二百四条第二項)。
@ 所得税法第二十八条第一項に規定する給与等。ただし、給与等の源泉徴収義務及び給与所得の源泉徴収票の提出義務は別に生じます。
A 所得税法第三十条第一項に規定する退職手当等。ただし、退職所得の源泉徴収義務及び退職所得の源泉徴収票の提出義務は別に生じます。
B ア及びウからキまでに掲げる報酬等のうち、所得税法第百八十三条第一項に規定する源泉徴収義務者以外の個人から支払われるもの。個人で契約する税理士への申告事務の報酬等など。
C イに掲げる報酬等のうち、施設の経営者以外の者から支払われるもの(施設の経営者を通じて支払われるものを除きます。)(※2)。
※2 このうち、客から施設の経営者を通じてホステス等に支払われるものがある場合は、当該報酬又は料金については、当該バー等の経営者を当該報酬又は料金に係る支払者とみなし、当該報酬又は料金をホステス等に交付した時にその支払いがあったものとみなして、源泉徴収義務及び支払調書の提出義務が生じます(所得税法第二百四条第三項)。
※3 キに掲げる報酬、料金等とは次の表に掲げるものをいいます。
所得税法第二百四条第一項各号 | 政令で定めるもの(所得税法施行令(昭和四十年政令第九十六号)第三百二十条) |
---|---|
(同項第一号) |
【これらに類するもの】(同条第一項) |
<支払調書の実例> |
|
(同項第二号) |
【その他これらに類するもの】(同条第二項) |
<支払調書の実例> |
|
(同項第五号) |
【映画、演劇その他政令で定める芸能】(同条第四項) |
【出演若しくは演出(指揮、監督その他)】(同条第四項) |
|
【その他政令で定める芸能人】(同条第五項) |
|
<支払調書の実例> |
A 報酬等の範囲に含まれないもので、間違い易い例
ア 各種委員会の委員に対する委員報酬
各種委員会(※)の委員報酬を報酬等とみなして所得税の源泉徴収をする例が見受けられます。しかしながら、このような委員報酬は、所得税法上は、給与等と判断されます。このため、その源泉徴収所得税額も報酬等による税率ではなく、給与等の源泉徴収税額表によるものとなります。また、この委員報酬の外に、費用弁償を受けないものに対して支給される報酬は、その機関として支払われるものが1万円未満の場合は非課税となります。このほか、給与等を支払った日の翌年1月に職員課・会計室を経由して提出する法定調書も、源泉徴収票で提出することとなります。
※ 審議会、調査会、協議会等の名称を含みます。
イ 医師・看護師に対する報酬等
各種事業に随行し、健康保険の取扱いの範囲外の診断や怪我などの応急処置等をするため医師・看護師に報酬等を支払う場合があります。しかし、所得税法第二百四条第一項各号では、このような医師・看護師の健康保険外の応急処置等について、何らかの対価を支払った場合、それが報酬等に該当する旨の規定はありません。このため、当該対価が何に該当するのか否かを検討する必要があります。仮に給与等に該当する場合は、給与等の源泉徴収税額表により源泉徴収し、源泉徴収票により法定調書を提出することとなります。
しかしながら、医師・看護師に係る教授、指導又は知識の教授や原稿料など所得税法第二百四条第一項各号のいずれかに該当する他の役務に対する報酬等である場合はこの限りではありません。
ウ アドバイザー謝礼、ファシリテーター謝礼、コメンテーター謝礼、座談会参加謝礼、司会報酬、保育謝礼など
これらはいずれも所得税法第二百四条第一項各号には、これらが報酬等に該当する旨の規定はありません。ただし、これらの業務が、同項各号に該当する報酬等であると解釈される場合(※)はこの限りでありません。
これらの報酬については、給与等に該当する可能性がありますが、正確には税務署に具体例とともに、事前に問合せして確認してから、源泉徴収等をしてください(※2)。
※ 座談会やコメンテーターが参加した講演会等において、そのコメント等を文字起こしし、冊子を作成した場合、その点においては原稿料と解釈できます。
※2 税務署からその指針等を確認後は、支出原議にその内容を記載するとともに、「○年○月○日○○税務署○○課○○氏に確認済み。」と記載するようにします。
エ 非常勤報酬等
非常勤職員(地方公務員法第二十八条の五第一項又は第二十八条の六第二項に規定する短時間勤務の職を占める職員を除きます。)については、国税庁の所得税基本通達のとおり給与等として扱います。
B 人格のない社団・財団に対する源泉徴収
報酬等において源泉徴収するのは、主として個人事業者に対して支払う場合です。法人の場合は、原則として源泉徴収しません。ただし、芸能法人等一部ついては、この限りでありません。
PTA、同窓会、婦人会などのように、法人格のない社団・財団(※)であることが、明らかなものは、源泉徴収の対象となりません。
また、支払いを受ける者が法人以外の団体(研究会、同好会、楽団などの名称を用いるもの)であって、人格のない社団・財団に該当するか明らかでない場合は、その支払を受ける者が次のいずれかに掲げる事実を挙げて、人格のない社団・財団であることを立証した場合を除き、その支払いをする報酬・料金は、源泉徴収の対象となります。
ア 法人税を納付する義務があること。
イ 定款、規約、日常の活動状況から見て、単なる個人の集合体ではなく、団体として独立して存在していること。
(6) 源泉徴収票の交付と支払調書の提出
給与等の所得に対し、源泉徴収をしたときは、翌年1月末までに税務署に対し、その支払額、住所、氏名などを報告するとともに、その所得を受ける者に対し、源泉徴収票を交付します。
また、報酬等の所得に対し、一定金額以上の支払いをしたときは、翌年毎年1月末までに税務署に対し、その支払額、住所、氏名などを報告する必要があります。また、その所得を受ける者の希望に応じ(※)、支払調書を交付します。
※ 源泉徴収票には交付義務はありますが、支払調書にはありません。しかしながら、交付の求めがある場合は必ず交付してください。
(7) 源泉徴収する所得税額に1円未満の端数が出た場合
国税通則法第百十九条及び国税通則法施行令第四十条第二項の規定により、1円未満の端数を切り捨てます。また、年末調整の場合の年税額等については、税額に 100 円未満の端数が生じたときは、その額を切り捨てることとされています。
(8) 税務署への問合せ
実際の事業執行、特に全くの新規事業や前例のない支払いをする場合には、どの規定を適用し、税率を何パーセントにすべきかについて判断しかねることは多くあります。
このようなときは、税務署に、具体的な問い合わせをして、回答を得るようにします。
なお、調査した源泉徴収所得税の取扱いについては、支出原議にその内容を記載するとともに、「○年○月○日○○税務署○○課○○氏に確認済み。」と記載するようにします。