公務員の債権管理を分かりやすく解説!時効、催告、請求、公債権など
時効が成立しているかの判断方法
債務者の所在が判明している場合は、まずは時効が完成していないものとして扱います。
債務者に面会を求めたり、電話による催告などで、弁済を促します。
それに応じて債務者が一部弁済したり、支払猶予を求めてきた場合は、それが時効中断となるからです。
一方債務者の所在が不明の場合は、決裁権者を交えて、場合によっては弁護士を入れて、検討する必要があります。
詳しくはこちら:時効が完成した場合、自治体は債務者に請求できるのか?
債務者が破産(免責決定)した場合の対応
破産手続が開始されると、一般債権者は破産手続によらなければ弁済を受けることができなくなります(破産法100条T)。
破産手続外で債務者から口座振替や振込によって入金になった場合は直ちに返還しなければなりません。
債務者に対する免責決定が確定した後、債務者からの支払いがなく、かつ何らの連絡もないときには、債権放棄の手続きを採ることになります。
詳しくはこちら:債務者が破産したとき自治体は請求できるのか?強談威迫にあたる場合
保証人がいる場合の債務の考え方
保証人の「保証債務」は、主たる債務とは別個独立債務となります。
そのため、主たる債務者に対する時効の中断は保証債務に影響を及ぼさないし、保証人に対する時効の中断は主たる債務に影響を及ぼさない、というのが原則です。
ただし、主たる債務者と保証人とは特殊な関係にあるので、相互に影響することに注意しましょう。
詳しくはこちら:保証債務の時効の起算点は?連帯保証人による時効中断と援用手続き
無資力要件を認定するための資料
免除や債権放棄、履行延期の特約等の適用要件は、「著しい生活困窮状態」、「無資力又はこれに近い状態」、「当該債務の全額を一時に履行することが困難」であるときですが、これらの要件は以下の資料に基づいて認定します。
(1)申請時に所持している現金の額(20万円以下の場合は記載不要)
(2)申請時に所持している預貯金の額(過去2年以内の取引きの明細がわかるように全ページの写し)
(3)公的扶助の受給(受給している場合には、受給証明書を提出)
(4)申請時の報酬・賃金の額(最近2ケ月分の給与明細、用意できない人の場合は課税(非課税)証明書を提出)
(5)仮に申請時に、勤務先から退職ないし役員退任した場合に支払われるであろう退職金又は退職慰労金の見込額(使用者又は申立代理人作成の退職金計算書を提出)
(6)貸付金、売掛金がある場合には、その額(相手の名前、金額、発生時期、回収の見込みの有無及び回収できない理由を記載する。)
(7)積立金等(社内積立、財形貯蓄、事業保証金)がある場合には、種類、金額、支払開始時期
(8)保険がある場合には、保険会社名、証券番号、解約返戻金の額(保険証券及び解約返戻金計算書の写しを提出)
(9)有価証券(手形・小切手、株券、社債)、ゴルフ会員権などを所有している場合には、種類、取得時期、担保差入れの有無、評価額(証券の写しを提出)
(10)自動車、バイクなどの車両を所有している場合には、車名、購入金額、購入時期、年式、所有権留保の有無、評価額(自動車検査証又は登録事項証明書の写しを提出)
(11)過去5年間において、購入価格が20万円以上の物(貴金属、美術品、着物など)がある場合は、品名、購入金額、取得時期及び現在の評価額(時価)
(12)過去2年間に処分した評価額又は処分額が20万円以上の財産があるときは財産の種類、処分時期、評価額、処分額、相手方、使途(処分に関する契約書・領収書の写し、不動産を処分した場合には、処分したことがわかる登記簿謄本を提出)
(13)不動産を所有している場合には、不動産の所在地、種類など(登記簿謄本を提出、オーバーローンの場合は定型の上申書とその添付資料を提出)
(14)相続財産があるときは、被相続人名、その者との続柄、相続時期、相続財産の内容
(15)事業設備、在庫品、什器備品等があるときは、品名、個数、購入時期、評価額(評価額の疎明資料を提出)
(16)その他、上記に該当しない財産(破産管財人の調査によって回収が可能となる財産、敷金、過払金、保証金等)があるときは、相手方、金額等
詳しくはこちら:無資力要件とは?認定資料は何が必要なのか
条例に定めがあれば、債権放棄に議決は不要
債権を放棄するには原則として議会の議決が必要です。
しかし「条例」に特別の定めがある場合には議会の議決は不要とされています(自治法96条TI)。
例えば、私債権管理条例で自治体の私債権は、以下の場合に放棄できるとされています。
@債務者が著しい生活困窮状態(生活保護法の適用を受け、又はこれに準じる状態をいう。)にあり、資力の回復が困難であると認められるとき
A破産法253条1項その他の法令の規定により債務者が当該債権につきその責任を免れたとき
B当該債権について消滅時効が完成したとき(債務者が時効の援用をしない特別の理由がある場合を除く。)
C強制執行等の手続きをとっても、なお完全に履行されない当該債権について、強制執行等の手続きが終了したときにおいて債務者が無資力又はこれに近い状態にあり、弁済する見込みがないと認められるとき
D徴収停止の措置をとった当該債権について、徴収停止の措置をとった日から相当の期間(例えば1年以上)を経過した後においても、なお債務者が無資力又はこれに近い状態にあり、弁済する見込みがないと認められるとき
詳しくはこちら:債権放棄の手続きとは?議決後の通知書と免除の流れの解説
法律に定めがあれば、債権放棄に議決は不要
「条例」に特別の定めがある場合には議会の議決なしで、債権放棄できると説明しましたが、
同様に「法律若しくはこれに基づく政令」に特別の定めがある場合も議会の議決は不要とされています(自治法96条TI)
例えば「自治法240条Vに基づく自治令171条の7による免除」はその1つです。
債務者が無資力又はこれに近い状態にあるため履行延期の特約又は処分をした債権について、当初の履行期限(当初の履行期限後に履行延期の特約又は処分をした場合は、最初に履行延期の特約又は処分をした日)から10年を経過した後において、なお、債務者が無資力又はこれに近い状態にあり、かつ、弁済することができる見込みがないと認められるときは、当該債権及びこれに係る損害賠償金等を免除することができることを定めています。
詳しくはこちら:債権の免除の条件と自治法の規定|無資力の定義と認定の条件
民事債権(時効10年)と商事債権(時効5年)の違い
民法では、債権の消滅時効期間は10年(民法167条T)、商法では商行為によって生じた債権の消滅時効期間は5年(商法522条)となっており、商行為とは何かが問題となります。
商法501条に列挙されている、手形に関する行為や取引所における取引行為など(絶対的商行為)
商法502条に列挙されている、営業として行う運送、印刷、出版に関する行為など(営業的商行為)
附属的商行為とは、商人がその営業のために設備資金や運転資金を借りる行為など(附属的商行為)
商行為かどうかを判断するには、商人性の有無も併せて検討する必要があります。
詳しくはこちら:商事債権とは?民事債権との違いと商法上の時効などを解説
民法と地方自治法の時効中断事由の違い
民法に定める時効中断事由は、次の3つです(民法147条)
1 請求(裁判上の請求、支払督促、和解及び調停の申立て、破産手続等の参加、催告(民法149条〜153条)、民事執行法上の配当要求)
2 差押え、仮差押え、仮処分
3 承認(その権利が存在することを知っている旨表示した行為。支払猶予の申込み、債務の一部弁済など)
一方自治法では以下のように規定されています。
「法令の規定により、地方公共団体がする納入の通知及び督促は、民法153条の規定にかかわらず、時効中断の効力を有する(自治法236条W)」
民法153条では催告は6ケ月以内に裁判上の請求、差押え、仮差押え、仮処分などをしない場合には時効中断の効力がないとされていますが、自治法ではこれを無視し、民法153条の規定にかかわらず、地方公共団体がする納入の通知及び督促について強力な時効中断の効力を認めています。
詳しくはこちら:時効の中断事由の種類とは?催告、請求など|自治体の債権管理を解説